ヤマハの発表会まで後1週間である。
ビートルズの「フロムミーツーユー」をやる。
ドラムは、半年前からドラムを習い始めた51歳のTさんである。
半年では、なかなかしんどい。
Tさんは、みんなであわせた後でしきりに、「これでいいんですか?これではだめでしょう。もう一回くらいみんなでやりましょう」と言う。
私も、「これではだめだ」と思うが、あわせてどうなるものでもないと思う。
Tさんの猛練習に期待する。
歳をとるとリズムというのが難しい。
Kさんは、大手企業を定年退職後、ウクレレなどを楽しまれている。
顔、体形とも、「ムーミンパパ」を思わせる、ほのぼのした味のある方である。
Kさんがウクレレを練習している所に居合わせたことがある。
Kさんの練習はすごい。
休む間もなくエンエンと繰り返される。
その日も、ハワイアンの有名な曲を、エンエンと繰り返して練習されていた。
リズムが違うのではないかと思って、Kさんの前の楽譜を見た。
やはり違った。
Kさんは、ウクレレを「タンタンタンタン」と弾いている。
楽譜のリズム指定は、「タッカタッカ」である。
おまけに、楽譜にはKさんの自筆で、「リズムはタッカタッカ」と赤インキで書いてあるではないか!?
たぶん、先生に注意されて書かれたのであろう。
私はKさんに言った。
「リズム、違いますよ」
私が人に注意できる機会などまずないので、非常に優越感をもって、堂々と注意した。
「タンタンじゃなくて、タッカタッカですよ」
「ああ、そうですか。タッカタッカですか。いや、どうもどうも」
と言って、Kさんは弾き始めた。
やはり「タンタン」である。
「いや、そうじゃなくて、タッカタッカ」
「はあはあ、タッカタッカですな」
Kさんは当惑気味の表情で弾きなおした。
やはりタンタンである。
「いや、そうじゃなくて、タッカタッカです」
「はあはあ・・・」
Kさんは困惑されているようであった。
私は、「口でタッカタッカと言いながら弾いてみたらどうですか」と言った。
「あ!なるほどネ!口で言いながら!これはいいアドバイスを頂きました」
Kさんは、口でタッカタッカと言いながら弾きだした。
あまり良いアドバイスではなかった。
Kさんは、口ではタッカタッカと言いながら、手はタンタンなのであった。
私の優越感は消え去り、途方に暮れてしまった。