若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

「べテルの家の非援助論」を読む

この本のことは全く知らずに図書館で借りた。

「障害者を援助してあげる」というような考え方はダメだ、というようなことが書いてあるのだろうと思った。
例によって、読みはじめるとそんなことはどうでもよくなった。

北海道日高の日赤病院精神科のケースワーカー向谷地(むかいやち)さんという人が主として書いている。
「ベテルの家」というのは、精神科の患者達の共同体の名前である。

精神科の患者達が、会社を作って特産品の昆布を売ろうと考える。
地域の経営者達の会でそのアイデアを話したら、
「あんた達、頭おかしいんでないの」
と言われる。
「おかしいんです」と答えたかどうか、とにかく今では年商一億円だと言う。

精神分裂病患者が、自分の妄想や幻聴を語るビデオを作って売っているし、ベテルの家の見学者も多い。
昆布とサラブレッドに伍して、今では「精神分裂病」も日高の地場産業のひとつに数えられているそうだ。

Aさんは時々発作を起こす。
固まってしまう発作がある。
食事中発作が起きて固まってしまった。
それを見た向谷地さんの5歳になる息子が、オモチャのトンカチでAさんの頭をたたいたら、「おおっ!」と言ってまた食べ始めた。
それ以来、トンカチが必需品になった。

何かに向って突進する発作もある。
ガラス戸に向ってとなると危険である。
あるとき、ガラスに向って突進するAさんに
「そのガラス、5千円!」
と言ったら止まったそうである。

幻聴を持つ人がある。
Bさんは、なんと、721人の「幻聴さん」を持っている。

ある時、旅行に行ったら、「幻聴さん」の何人かは、Bさんを置いて先に病院に帰ってしまったそうである。
一方、Bさんが病院に帰った後も、観光地に残った「幻聴さん」もいたらしい。
その「幻聴さん」たちは、しばらく自分たちで観光してから帰ってきて、また721人そろったのでBさんは安心したそうである。

この患者たちは、時々「相談会」を開く。
市民の悩みの相談に乗ってあげようというのだ。

「会社に行きたくないんです」
「ボクもずーっとそう思っていたら、精神分裂病になって、会社に行かずにすむようになりました。あなたももうすぐですよ」

ある牧師さんは、患者から、「あんたも病気にならないとダメだ」と説教されたそうである。

こういう話が満載なので、「非援助論」なんかどうでもよくなる。