精神科のお医者さんが書いた本を読んだことがある。
大きな病院で、入院するほどでもなくなった在宅通院患者を担当されていた方である。通院患者の会を作って世話をされていた。
ある日、患者の会の会合で、男性患者が、皆に名刺を配っていた。
先生も渡されて、見ると、その人の肩書きが「ヘリコプター発明者」となっていた。受け取った人たちは、「うそつけ」とか言わず名刺を見ていた。
その後、彼は皆から、「ヘリコプター」と呼ばれるようになったそうです。
先生の診察の日、いつも一番に来るのはAさんで、二番はBさんと決まっていた。
ある日、Aさんの診察が終わってBさんが入ってきた。Bさんは、非常にやつれた、落ち込んだ表情をしていた。
先生は心配して、何かあったのかと聞いた。
「私はいつも二番なので、今日こそ一番になってやろうと思って、昨日の夜Aさんに電話したんです。いつも何時から並んでるのかと聞いたら、夜中の三時からだと言いました。それで私は、二時に来たら一番になれると思って、張り切って二時に来て見たら、もうAさんが並んでいたんです。だまされました」
Bさんは、がっくりとうなだれたそうです。
患者の会で知り合って、結婚する人もいるらしい。
アパートで、生活保護を受けて暮らしている夫婦が、ある日とても楽しそうだったので先生が聞くと
「昨日の日曜に、ウチに不動産会社の若い営業マンが来て、住宅地を買ってくれというんです。お金がないと言ったら、見るだけでもいいと言って、車に乗せて現地に連れて行ってくれました。楽しいドライブでした。
新しい住宅地で、緑が多くて、とてもきれいでした。親切な営業マンで、お弁当までくれました。ほんとに楽しかったです。
でも、一つイヤだったのは、その営業マンの上司でしょうか、私たちを見ながら、その人をものすごく怒ったんです。足でけってました。どうしてあんなことするんでしょうか」