私が、パソコンに初めてさわったのは、1985年のことです。
一般の企業に、どんどん普及して行った時期でした。
講習会に行きました。
私みたいな中年の男女十数人が参加していました。
先生は 若い女性で、とても優しく丁寧に教えてくれました。
幼稚園の先生のようだと思いました。
そして、私たちは、幼稚園児のようだと思いました。
先生のやさしい声を覚えています。
「ハイ、ここでポンとリターンお願いします」
この声を聞くと、「一件落着」「めでたしめでたし」という気がして、ほっとしたものです。
二日目に、隣の席の五十歳くらいの女性が私に言いました。
「社長に言われてきたんですけど、難しいですわー。頭に入りませんわ。会社辞めよか思てますねん」
「コンピュータゲーム」というものがあることを知った私は、どんなものか試して見たいと思いました。
大阪駅近くのソフトショップに行きました。
かなり大きな店でした。私が入って行ったのに、若い男女の店員が楽しそうにおしゃべりを続けていました。
ゲームソフトがほしいというと、女性店員が、事務所のほうに向かって
「○○さーん!ゲームソフトのお客さんでーす」と声をかけました。
むむ!「ゲームの鬼!」というような若者が現れるのだな、と緊張して待っていました。
事務所から、私より十歳くらい上の、橋本龍太郎元首相に似た、苦虫をかみつぶしたような顔の男性が出てきました。
まさかね。
女性店員が私を指して、「こちらでーす」
その男性は私の前に来ると、にこりともせず、深々と頭を下げて
「いらっしゃいませ。ゲームソフトをお探しでございますか」
ま、まさか・・・。
「どうぞこちらへ」
店の一角の「ゲームソフトコーナー」に案内されました。
私が、ゲームについては何も知らないと言うと
「さようでございますか。えー、このあたりは、アクションゲームと申しまして、反射神経を競うようなゲームですので、私なんかは苦手でございますが」
私なんか!苦手!
この人、ゲームをするのだ!
「こちらは、ロールプレイングゲームというジャンルですが、推理力、判断力が必要となりまして、二ヶ月、三ヶ月かけてお楽しみいただくようなゲームでございます」
その人が推薦する、「ザナドゥー」というのを買いました。
「ザナドゥー」より、その人の人生の方が面白そうでした。