若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

人生を楽しむ

新劇俳優の中村伸郎さんの随筆を読んでいたら、「人間、好きなことをしたらいい。自分も、誰に頼まれたわけではなく、芝居が好きだからやってきただけだ」という意味のことを書いておられた。

では、中村さんが好きなこと一筋の幸せ者かというと、そうでもないようだ。
中村さんは、若いとき画家を志して、パリに留学したいと思ったが、親に反対されてあきらめたのだ。

「後年、休暇をとってパリに行き、セーヌ川のほとりでスケッチブックをひろげていたら涙が出そうになった。
こんなはずではなかった、若い自分がここで思いっきり絵筆を振るっていたはずなのだ」

読んでいるこっちまで泣きそうになる。

中村さんは、三島由紀夫の劇が好きだった。
三島由紀夫は、自分の劇にチョイ役で出るのを楽しんでいたそうだ。
あるとき、三島の新作台本を読んでいたら、奥さんが
「三島さんも書くだけにしときゃいいのに」
と言った。

中村さんはそうは思わない。
人にどう思われようと、出たいのなら出ればいい。

福田恒存も、自分が演出する芝居にチョイ役で出るのを楽しんでいたそうだ。
しかし、自作の劇には出なかったという。
中村さんは、自分の芝居は壊したくないのだろう、と書いている。

きのう散髪に行った。
主人は、ゴルフ、釣り、鉄砲など、多趣味の人である。
最近、猟に行って鹿を撃ったらしい。

私のギターのことを聞くので、先日の発表会の話をした。
キンキラキンの衣装を着たことを話したら笑っていた。
顔そりの奥さんと交代して奥に引っ込みながら
「それでええねん。楽しくやらんと。人生は楽しまんとあかんよ」

私のひげをそり始めた奥さんが、耳元に口を寄せて、そっとささやいた。
「自分ばっかり」