きのう母のいる施設に行った。
いつ来ても変わりはない。
入居者の皆さんが少しずつ衰えて、ぽつりぽつりと亡くなって行く。
昨日も、いつものように母は黙って車椅子に座っていた。
私の仲良しのMさんは、いつものように車椅子をゆっくり動かし、私を見ると、なんとなく笑う。
Aさんは、いつものように四時ごろになると、「看護婦さん、今何時ごろですか」と五分おきくらいに聞く。
Bさんは、いつものように舌をべろんと出して泣きそうな顔で、「ほっちゃ、お茶、ほっちゃ、ください」と言いながらうろつきまわって、他の人のお茶を飲もうとする。
Cさんは、いつものようにけわしい顔をしていて、Bさんが近づくと神経質ににらみつけ、もっと近づくと手で追い払おうとする。
いつもと同じ光景だ。
Bさんが、Cさんのお茶に手を出したので、Cさんが「あほ!」と叫んで、たたいた。
私は、Bさんの手を取って椅子に座らせたが、Bさんはまた立って行こうとする。
そこで、私の必殺技、「肩もみ」をする。
Bさんはわりあい新しい入居者なので、まだ試したことはなかった。
私が肩をもみ始めると、Bさんは、「アリガト、はりがとう・・・アリガト」と何度も言った。
私の手を取ってなでまわしたりする。
やはり、「肩もみ」はなかなかの威力である。
80代以上の女性に限って有効なのであろうか。
遠慮なく肩をもめる関係というのは良いものであると思う。
母がまだらボケの頃、何度も同じことを言った。
私は自分が短気だとは思わないが、同じことを二度言われただけでも、ムッとした。
そんなことでムッとする自分に驚いた。
息子が幼稚園に入った頃だったか、母が息子に同じことを何度か聞いた。
そのつど返事していた息子が何回目かに、「んも〜!おばあちゃん!どうして同じことばっかり言うの!今度同じこと言ったらぶっとばすぞ!」と言った。
母は、笑って「あらあら、おばあちゃん、そんなに同じこと言うてるのかね〜」と言った。
言いたいことを言う。笑って聞く。
うらやましい関係であると思った。
その頃、母が昔話をした。
息子が目を丸くして叫んだ。
「おばあちゃん!よく覚えてるな〜!何でもすぐ忘れるのに!」