朝、駅でベンチに座っていると、隣に私と同じような年恰好の男性が座った。
折りたたんだ新聞を広げて読み始めたとたん、「おお!」と叫んだ。
見ると、朝日新聞の一面だ。
私もさっき読んだばかりだ。
一面トップがなんだったか忘れたから、叫ぶほどのことでなかったのは確かだ。
男は、ページをめくって、「ほー!」と感心した。
またページをめくって、「ふーん、そうか」と言った。
夕べの酒が残っているのか。
この人の脳は、7時10分現在やや異常だ。
会社に着くまでに治りますように。
先日、母のいる施設へ行った。
私の元仲良しのMさんはうつろな表情で車椅子に座っていた。
こういう時、なんとか私だと分かってもらいたいものだ。
知らん顔されるのはさびしい。
Mさんに話しかけたけれど、反応がない。
今日はだめかと思った時、Mさんは突如泣き出した。
顔をゆがめて、「わーん!」と大きな声を上げて泣いた。
この号泣に意味があるのかどうか、難しいところだ。
脳がある程度正常に動いた上での号泣なのか。
一年ほど前、Mさんの同じような泣き顔を見た。
その時は、泣きながら私に、「にいちゃん、もう帰って!情けない!つらい!」と言われた。
わが身を呪う、という感じの号泣であった。
母はほとんど無表情だが、突然ニコニコすることがある。
脳のどこかに、「ニコニコの素」が残っていて笑っているのならありがたいと思う。
脳のこわれ方も人様々だ。
Yさんは、いつものように、「ありがたいありがたい」を繰り返しておられた。
「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがたいありがたい」
良いこわれ方だ。
男性のYさんは悪いこわれ方だ。
この日も怒鳴りまくっていた。
なんだか分からんが、怒っていることはたしかだ。
男性特有のこわれ方だ。
良いこわれ方をしたいものだ。
夢を見た。
十年以上前の我が家の朝だ。
小学校低学年の息子がパジャマ姿で起きてきた。
可愛い声で
「パパ、さっきボクに○○した?」
○○は聞き取れない。
私が答える。
「してないよ。夢でも見たんやろ」
ひょいと息子を抱き上げる。
軽い。
息子は私の首に手を回し、両足で私の胴をはさんでニコニコしている。
奈良県親バカ連盟の有力会員である私にふさわしい夢だ。
私の脳に聞きたい。
どうしてもっとこんな夢を見せてくれないのだ。