きのうの朝。
私が降りる駅は各駅停車しか止まらない。
ひとつ前の駅で準急を降りて各駅停車に乗り換える。
私と同じように、各駅停車に乗り換えて次の駅で降りる人の中に、AさんとBさんがいる。
私と同じような年の人だが、二人とも私みたいなシティセンスあふれるイケメンナイスミドルではない。
典型的オジサンだ。
会話から察するに、同じ役所勤めだ。
二人とも人のよさそうな、温厚というか、穏やかというか、ボーっとしたというと失礼だが、売上数字に苦労したり、部下の操縦に悩んだり、リストラの心配をしたりという顔ではない。
いつもニコニコとゴルフの話をしている。
このご時世に平日ゴルフが多いようだ。
楽しそうだと思う時もあるし、ニガニガしく感じる時もある。
次の駅で降りるのだから、いつも乗り込んだところで二人並んでドアの方を向いてしゃべっている。
ところが、きのうは電車に乗るとBさんだけがさっさと奥に入って行った。
Aさんは気づかずドアのほうを向いた。
そこへ男が乗り込んできた。
Aさんはその男を見て
「あ!・・おはようございます」と言った。
相当緊張している。
男はにこりともせず無言でうなずいた。
おぬし、できるな!と私は思った。
役所のエライ人だな。
キンチョー感のある、「なめるなよ」と言わんばかりの顔だ。
「本庁」から来た人なのか?
Aさんはこの「エライ人」と「差し向かい」になってしまったのだ。
気の毒である。
Aさんは救いを求めるかのように、後ろにいるはずのBさんを振り返った。
Bさんの姿が無いので一瞬驚いたようだ。
はるか向うにいるBさんを見て、Aさんはガックリと肩を落とした。
Bさんは、早くに「エライ人」に気づいて奥に逃げ込んだのだ。
Aさんは黙ってうつむいている。
「エライ人」は恐い顔をして立っている。
私はAさんに、「今日はお早いですね」くらい言いなさいとアドバイスしたかった。
Aさんはあきらめきれないようにもう一度Bさんの方を見た。
Bさんはそっぽを向いている。
Aさんにとって、駅に着くまでの二分ほどがどれだけ長く感じられただろう。
ドアが開くと、Aさんは、「しかたなく」という感じで「エライ人」について行った。
Bさんはついて行かなかった。
完全にAさんを見捨てたようだ。
Aさんは「エライ人」について階段を下りて行った。