朝のバスで。
はじめてみる親子連れだ。
お父さんと私学の中学の制服を着た女の子。
いかにも、こないだまで小学生でした、という感じのかわいい女の子だ。
お父さんはふつうのサラリーマン風の人だが、「娘と出勤する父親」特有のニコニコ顔である。
駅前で降りて、二人で私の前を歩いていく。
ふとお父さんが提げている茶色い革のかばんが目に入った。
かわいいうさぎの人形をぶら下げている。
ほほえましい、と思ったが、ヘンな趣味だなとも思った。
女学生ならともかく、と思って、あ、娘のかばんを持ってやっているのだ、と気づいた。
女の子は、薄手のグレーのかばんを持っていた。
改札口を入ったところで、お父さんはかばんを渡した。
うさぎのぬいぐるみと言えば、伯父を思い出す。
90近い伯父が入院した時、家内がうさぎのぬいぐるみを持っていった。
病院のベッドで、伯父はうさぎの耳をなでたりしていたそうだ。
伯父が亡くなった時、伯母が、そのぬいぐるみを棺桶に入れてくれと言った。
伯父の顔の横に入れた。
伯父とうさぎが並んでいるのが、不思議なような、似合っているような感じだった。
取引先の人で、私と同じくらいの年で、体格はコニシキ級の人がいる。
この人のネクタイは、いつも熊のプーさんの柄だ。
冷やかしたくなるのだが、一度も冷やかしたことがない。
なんとなく、触れてはならない!という気がするのである。
私も一つだけかわいい人形を持っている。
バッキンガム宮殿の衛兵だ。
やわらかいプラスチックで、5センチくらいの、「かわいい少年兵」という感じの人形だ。
大学の時、スーパーでブルックボンド紅茶を買ったら、おまけについていたのだ。
下宿の本棚においていた。
さびしい時辛い時にいつも慰めてくれた、と言うような深い関係ではないのだが、なぜか捨てずに持って帰って、今も本棚にある。
「鹿せんべいツイスト」のCDジャケットで踊っている衛兵は、この人形をモデルに描いたものである。
私が死んだら棺桶にはこの人形を入れてもらおう。
衛兵さん、守ってネ。