若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

「けいたん」

図書館に行く。
中学生と思えるおとなしそうな女の子が、カウンターの職員に質問。
芥川龍之介の本はありますか」
「・・・いろいろありますよ・・・」
何となく新鮮である。

私は中学の時、学校帰りに家の近くの市立図書館に一週間ほど通ったことがある。
アルフォンス・ドーデの『風車小屋便り』を借りて図書館で読んだのだ。
当時、その図書館は閉架式で、申し込み用紙を書いて本を持って来てもらった。
窓口にいたのは、私から見ると「老紳士」であった。
何日めかに、その「老紳士」は私の顔を見て、「『風車小屋便り』だね。おぼえちゃった」とニッコリ笑った。

私にとって、「老紳士」も「標準語」も珍しかったのでそのことはよく覚えているのだが、なぜ図書館に通って『風車小屋便り』を読んだのか、『風車小屋便り』がどんな話だったのかは、全く覚えていない。

新聞に、「大塩恵旦(けいたん)」という陶芸家の名前が出ていた。
高校の時、「けいたん」というニックネームの英語の先生がいた。名前は「啓旦」と書く。
誰も姓を呼ばず、「けいたん」と呼んでいた。
ある時、授業中に誰かが、「先生の名前は本当はなんと読むんですか」と質問した。
小柄で真面目な先生は、ニコニコしながら、「さあ、なんでしょうね」と言われた。
皆口々にあてずっぽうを言った。
先生はますますニコニコと、「まあ、皆さんに長年親しんでもらった『けいたん』でいいじゃないですか」と言われた。
自分の名前が話題になって、しかも正解が出ないので満足そうであった。

その時誰かが、「あ!わかった!」と叫んだ。
「『スカタン』や!」
先生は真っ赤になって、「ひどいこと言いよるな〜」と言われた。
そして、黒板に「啓旦」と書いて、その横に「ひろあき」と書かれた。
「ボクの名前は『ひろあき』と読みます」

それまでご機嫌だった「けいたん」の憮然とした表情が目に浮かぶのである。