印象派の絵が好きになったのはいつごろだったか。
学生時代は、「現代美術がカッコイイ、印象派は古い」と思っていた。
好き嫌い以前に、家に画集もなかったし、いろんな絵を知らない。
美術の教科書の絵を見るくらいだった。
中学のとき、ある展覧会を見に行った。
アメリカの雑誌社が企画したもので、世界各地を巡回中とのことであった。
西洋の名画を、大きなガラスに印刷して、裏側から光を当てて展示する。
本物のように見えるということだった。
が、それは、西洋の名画をガラスに印刷して裏から光を当てたものという以外の何物でもなかった。
よくこれで世界を巡回したと思った。
二十年ほど前、印象派みたいに描けたらいいなと思っていた。
高校の美術部でいっしょだったA君にそう言ったら、「描けるやろ。あいつらも、何十年も修行して印象派になったのとちがうんやから」と言った。
それを言えば、レオナルドダビンチだって、何十年もかかってレオナルドダビンチになったわけじゃない。
弟子である若きレオナルドが描いた天使を見て、先生のベロッキオが驚いて絵筆を折ったというではないか。
ベロッキオの名前は、高校のとき知った。
美術教官室で、冨田先生は、芸大の後輩である佐々木先生相手に、いつも元気よくしゃべっていた。
私は、教官室のすみっこで、『みづゑ』などの美術雑誌を読みながら、聞くともなしに聞いていた。
「・・・その時ベロッキオ先生は・・・」
「・・・さすがにベロッキオ先生ですなあ・・・」
あまりに心安そうなので、私はベロッキオ先生というのは、冨田先生の知り合いだと思っていた。
レオナルドダビンチの先生だと知った時は驚いた。
印象派の話です。
図書館で、画集『オルセー美術館』を借りた。
印象派の名作がたくさんある。
オルセー美術館。
一度は行ってみたいものだ。
大学時代の友人B君は、オルセー美術館に行ったことがある。
すばらしい作品を楽しんだが、フランスでは日本のように、美術館でかしこまって美術鑑賞、という雰囲気ではないそうだ。
彼が訪れた時は客も多く、がやがやと騒がしくて、落ち着いて鑑賞する気分になれなかった。
がまんできずに係りの女性に苦情を言った。
「騒がしすぎるんじゃないですか」
「これがホントの、うるせー美術館です」
「え〜かげんにしなさいっ!」
「ウィ、ムシュー」