若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

はがき

N君からの手紙を読んで、私が書いたはがきも何枚か読んでみた。
母に書いたものだから、面白くはない。
約四十年前の、どうでもいいことだから、記憶にないことばかりだ。

「きのう、十日ぶりで風呂に行きました」と書いたはがきがある。
「二週間ぶりで風呂に行こうと思います」と書いたはがきがある。

そうだったのか。
信じられないが、そんなものだったとも思う。

私が住んでいた、巨大木造おんぼろアパート、「日本アパート」の部屋にはドアの鍵がなかった。自分でつけるのである。
しかし、ドアも柱もぼろぼろなので、鍵の取り付けに困った。ドアに、かろうじて鍵がぶら下がっているという状態だった。
実際、ある日私が帰ったら、友達が鍵を取り外して(鍵を開けてではない)部屋に入っていたことがあった。

アパートには洗濯場があって、たらいと洗濯板が備え付けてあった。
私は、一度だけ、シーツと布団カバーを自分でたらいで洗濯したことがある。そして、四畳半の部屋に干した。
これはしんどかった。マネをしない方がよろしい。

ストーブを買わずにがまんした。
窓はがたがたで、隙間風がものすごく、部屋の中に雪が舞い込むこともあった。
あまりの寒さに、インスタントラーメンを食べたが、身体が温まらないので、ラーメンにウイスキーを混ぜた。
これはまずかった。マネをしない方がよろしい。

ホテルでアルバイトをしたときのことを書いたはがきがあった。
横浜港の近くの、立派なホテルだったが、エレベーターボーイとして雇われた私に、バーの飲み物を運ばせたり、客を部屋に案内させたりしたのだから、一流でなかったことはたしかだ。

ボーイ長に言われて、外人客を部屋に案内したことがある。
ホテルの中がどうなっているか全然知らないのだから、大変に焦った。部屋に入ってまごまごしている私にチップをくれた。生まれて初めてのことでよく覚えている。

チップをもらったのは、これしか覚えていなかったが、はがきには日本人からもらったことが書いてあった。私と同じ年頃の若者から何度かもらったようだ。
海外旅行のため泊まっていた人たちで、よほどの金持ちだったはずだ。

同じ年頃の日本人からチップをもらって、私はカチンと来たようだ。
外人客から百円もらったことは喜んでいるのに。