若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

誕生日

きのう、母がいる施設に行ったらSさんの誕生パーティだった。
施設は、いわゆる「グループホーム」であるが、症状が進んだ今となっては、「共に暮らしている」という感覚を持っている人はいないだろう。

Sさんは87歳。
グループ六人の中では一番若い。

以前は、どなたかがあいさつして、「おめでとうございます。これからも元気でがんばってください」くらいは言えたものだが、今や沈黙のパーティである。
職員さんと私で、「ハッピーバースデイ」を歌う。

Sさんは美しい白髪の、上品な老婦人である。
非常におしゃべりだ。
よくこれだけ支離滅裂なことをよどみなくしゃべれるものだと感心する。
聞いていると、私を含めて人間の基本形はこういうものだろうと納得する。
脳の中にためこんだ言葉がなんとなく流れ出ている。

水道の蛇口のしめ忘れみたいな感じだが、水道と違って脳の中の言葉は使っても減らない。使って減るものなら、Sさんはとっくに言葉をなくしている。
もしそうなら、私たちも言葉を無駄に使わず取っておくだろう。

「こんにちは」と一度言ったらまた補充しないといけないなら、誰にでも適当に言うわけにはいかない。
この人に言うのはもったいないからやめておこう。ぷい。

知ったかぶりをしたくても、言ってしまったらまたおぼえなおさないといけないなら、ぐっとがまんしなければならない。
そのことについて私はいろいろ知っていますがね。ふふふ。
いやな世の中だ。
言葉が使い減りのするものでなくてよかった。

Sさんとはほとんど会話は成り立たないが、たまに当たることがある。
「Sさん、大正何年生まれですか」
「大正七年です」

この場合、「大正」がキイワードだ。
「何年生まれですか」と聞いただけでは答は返ってこない。

「女学校はどこですか」
「しんめい女学校です」
これは中国にあった女学校ではないかとインターネットで調べると、「大連神明女学校」が見つかる。
私はこの十年で、こういうお年寄りと話すコツをある程度つかんだ。

きのう、同じグループのKさんが、いつものように、まわりの人を指差して、険しい顔で「非難」し始めた。
私は一度「ばか!」と言われたことがある。

先日、Kさんのご近所の方が来られて、そんなKさんを見て、「かわってはれへんねー」と笑っておられたそうだ。

そ、そうなんですか・・・。