若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

新聞自動販売機管理責任者

「新聞自動販売機管理責任者」という資格があるのかどうか知らない。

私が乗る電車の駅に新聞の自動販売機がある。
私は、電車が来るまでの少しの間、自動販売機の横のベンチに座っている。

自動販売機のそばにいつも男が大、小二人いる。
ジーンズにスニーカー、夏はTシャツ、今なら防寒着。
どちらも40歳くらいで、どちらも無精ひげをはやしている。

時々自動販売機を開けている。
足りなくなった新聞を補充するのが仕事かと思うが、現場を見たことがない。
二人でしゃべっているだけだ。
私は一応この二人を「新聞自動販売機管理責任者」と名づけた。

たまに、小さいほうの男の友達が現れる。
サラリーマン風の人だ。

二人は、サラリーマン風男性が電車に乗るまで立ち話をする。
「新聞自動販売機管理責任者」は、ぞんざいな口のきき方をする。

「きのう、どないしとってん?」
大きな声である。
「家でごろごろ」
小さな声である。

「ワシ、ひげ伸びたやろ。会社でひげ伸ばしてるやついてる?」
「ひげ、あかんねん」
「ひげ、あかんのん?」

かたい職場のようだ。
中学時代の友達、というような感じでしゃべっている。
それはよろしい。
それはいいのであるが、「新聞自動販売機管理責任者」は、この友人が現れるといつも自動販売機を開けて「日本経済新聞」を取り出し、「ホイ」と手渡すのである。
友人は、「サンキュー」と言って受け取る。

この情景を見るたびに、私は、なんと言えばいいのかわからんが、非常に激しい感情に襲われる。
まあ一言で言えば、「うらやましー!」と思うのである。

整理してみないと自分でもよくわからない。
日本経済新聞」をもらう友達がうらやましいのか、「日本経済新聞」を勝手に取り出して友達に渡す「新聞自動販売機管理責任者」がうらやましいのか。

新聞を一部もらった人をうらやましいと思うほど私はけちな男か。
そうではなくて、管理責任者の特権をうらやましがっているのだろうか。
駅長をはるかにしのぐ権限を持っているかのように思える。

いや、ちがう。
私は、この二人の美しい友情がうらやましいのだ。
よかったよかった。