若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

楽しいおしゃべり

楽しそうにおしゃべりしているのを見るのは楽しい。

ひそひそ話はあまり楽しくない。
私は、最近毎日のように電車でひそひそ話を聞いている、というか聞かされている。

朝、同じ駅から乗る中年の女性二人である。
この二人が、初めて私の前で話し始めたときには好感を持った。

Aさんが、声をぐっとひそめて話し出したとき、気配りの人だなと思った。
Bさんが、やはり声をぐっとひそめて返事をしたとき、お二人様、そこまで気をお使いにならなくてもよろしゅうございますよとほほえましく思い、思わず頬がゆるみ心の中に温かいものが広がった。

Aさんが「ひそひそ」言うとBさんが「ひそひそ」答え、それにまたAさんが「ひそひそ」「ひそひそ」「ひそひそ」「ひそひそ」

途切れることなく絶えることなく連続的にエンエンと息つくまもなく閉めそこなった水道のようにちょろちょろだらだらといつ果てるとも知れず二人のひそひそ話が続くに従って、はじめに感じた好感は薄らぎゆるんだ頬は引きつり心の中の温かいものはさめてしまった。

よくこれだけひそひそと話せるものだ。
二人で、どれほど小さい声を出せるか競い合っているのか、あるいは互いの聴力の限界を確かめあっているのか。

次第にいらいらしてくる。
これでいらいらするようでは修業が足らないと、電車禅を始める。
これは私が始めた座禅の変形で、電車の中で立ったまま眼と口を半開きにして瞑想するのである。
近鉄奈良線電車内で、眼と口を半開きにして立っている男がいたら私ですので、お気軽にお声をおかけくださいと言いたいが、修行の最中ですので声をかけるのはご遠慮ください。

昨日の帰り、駅前のバス乗り場で立っていたら、向こうから女子高生が二人、しゃべりながら歩いてくる。
ゆっくり歩きながら、時々立ち止まってそっくり返って笑ったり、おなかを抱えて笑ったり、眼を真ん丸くしたりしている。

私の後ろを二人で笑いながら通り過ぎた。
奥の乗り場からバスに乗るようだ。

止まっているバスの前で夢中で話し続けている。
女子高生をじっと見ている怪しい男と思われてもかまわない。
見ているだけで楽しい。

二人とも乗るのかと思ったら、乗るのは一人のようだ。
「発車します」のアナウンスで、一人がバスに近づいたとき、もう一人が身体をよじって叫んだ。

「しゃべりたい!もっとしゃべりた〜い!」