若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

虚業

ライブドア事件に関して、「虚業」という言葉を使う人がいる。
「彼らのやってることは虚業です」
「堀江君は虚業家でしょう」

虚業」とは「実業」じゃないものだ。
「実業」というのは鉄や自動車を作ることで、「虚業」は、などと考えない方がいい。
世の中、口からでまかせに言葉をもてあそぶ人が多い。
最近特に増えてきて、私のように早くからこの道一筋に歩んでいるものには迷惑である。

虚業」なんてあるのか。
言いかえると「実業」なんてあるのか。
江戸時代にはなかった。
と思う。
明治に始まった新しい仕事を、これは立派な仕事なんだと言うために、「実業」とか「実業家」とかいう言葉ができたのではなかろうか。

そのうち「実業界」にアヤシイ人も出てきて、あんなやつといっしょにされては困る、アレは「虚業家」だということになる。
犯罪者というのではないが、言葉巧みに手並み鮮やかに世の善良な人々を惑わせる怪しい人物。
ミスター・マリックみたいな人。

要するに、「実業」といい「虚業」といい、いいかげんな言葉だ。
それにしても「実業」、すなわち世の中の役に立つ、かたいまっとうな仕事というのはあるように思える。

「消しゴム製造」というのはどうでしょうか。
実業中の実業といえるのではないか。
以前、消しゴム製造会社の工場長と話したことがある。
工場長は、謹厳実直、消しゴム一筋という感じの方であった。

話の途中で工場長が、「ウチはおもちゃは作りません!」と誇らしげに言った。
私は首をひねった。
当たり前ではないか。
聞くと、「おもちゃ」というのは、たとえば動物の形の消しゴムのことだった。
わが社は、あくまで、文房具、事務用品として製造しています!
こういう人から見ると、おもちゃ消しゴムを作るのは虚業だろう。

では、品質改良一筋ですね、と聞くと、品質は今ではほとんど改良の余地はないという。
文房具消しゴムの命は、消しゴムに巻いてある紙のデザインだそうだ。
スーパーカーがはやればスーパーカーの絵、恐竜ブームなら恐竜の絵。
ディズニーやスヌーピーなどの定番は別にして、毎週何種類もの新柄を出さないと売れないそうだ。

「あなた、子供が喜びそうな絵を描ける人知りませんか?いくらでも買いますよ!」

工場長は真剣に訴えた。
私たちは、今やこういう実業の世界に生きている。