テレビをつけたら「消しゴム工場」をとりあげてた。
二十年ほど前、仕事で行ったことがある工場だったのでなつかしかった。
その工場で、しみじみと現代社会の複雑さを思い知ったのであった。
殺風景な応接室で工場長と話をした。
謹厳実直を絵に描いたような工場長が、「ウチはおもちゃは作りません」ときっぱりといった。
「おもちゃ」というのは、ハデな色の、動物や果物の形をした消しゴムのことだった。
そういうものには目もくれず、ひたすら「文具」「事務用品」としての消しゴムを作っている。
「良心的」「プロの誇り」といったものを感じた。
「品質一筋なんですね」
工場長の返事は意外なものであった。
「品質は、いくとこまでいってます。学童用の消しゴムは、消しゴムに巻いてある紙のデザインで売れ行きが決まるんです。ディズニーやサンリオみたいな定番はあるんですが、それ以外に、子供にアピールするようなキャラクターが欲しいんです。誰かいいデザイナーご存じないですか?」
謹厳実直を絵に描いたような工場長は、謹厳かつ実直に、すがるような目で私を見た。
「おもちゃ」は作らない!
巻いてある紙のデザインで勝負する!
何だかワケのワカラン話である。
どの業界も似たようなものかもしれない。
現代社会は複雑で一筋縄ではいかないなあと思ったのであった。
さて、今日見た工場では、「おもちゃ」をどんどん作っていた。
そういう時代なのだと、機械から吐き出されてくる色とりどりの「おもちゃ」をしみじみと見ていたのであった。