奈良交通がバスの不採算8路線を廃止する。
この8路線で、年間8500万円の赤字というからしかたがない。しかたがないが利用者は大変だ。大変だが一日40人ほどの客の路線もあるからしかたがない。しかたがないが(以下略)
客の少ないバスというと、娘たちが幼稚園の時、夏休みに家族で行った洞川(どろがわ)を思い出す。私は洞川がどういうところかまったく知らなかった。修験道で有名な大峰山の登山口だということである。
家内と娘たちが朝出発して、私は仕事の都合で夜つく予定だった。電車の連絡がうまくいって、洞川行きのバスの出る下市に2時に着いた。思ったより早くつけそうだ。
「パパ、早かったね!」と喜ぶ娘たちの顔を思い浮かべつつ、駅前のバスの切符売り場に急いだ。
「洞川一枚。次の洞川行きは何時ですか」
窓口の女性は気の毒そうに、「4時です」と答えた。「時々いるんですよね、こういう人。大阪の市バスじゃないんですから」という表情である。
タクシーで行こうかとタクシー乗り場を見ると、無情にも大きな看板にでかでかと「洞川16800円」(-_-;)
2時間待とう。切符と整理券をくれた。
一番。座席は確保できた。
しかたなく駅前食堂でテレビの高校野球を見ながら時間をつぶす。この駅前食堂で印象に残っていることがある。女性客が、「トイレはどこですか」と聞いた。店の人が「あそこです」と指差したのは、駅前の公衆便所だった。
4時10分前、乗り場に行く。誰もいない。結局乗客は3人だった。この整理券はなんだ。
「町」を出て、幾つものバス停を過ぎて田んぼの中を走れど走れど誰も乗らず誰も降りない。とまったなと思ったら、女の人が運転手に風呂敷包みを渡した。誰じゃ。
車内放送で「これよりジユウジョウコウ」と言ったとき、何のことかわからなかった。「自由乗降」、すなわち好きなとこで降りなさい、好きなとこから乗りなさい。
藪の中から女学生が現れて乗ってきた。彼女はしばらく走った藪のところで降りた。唯一の途中乗車であった。
対向車を下がらせたり、バスが下がったりしながら細い山道を登った。
洞川まで一時間半であった。
次の日、娘たちと川に入ったら痛いほど冷たかった。
「洞川で川遊びをしようと思う」と言った私を、「アホかいな!」と笑った人の顔が浮かんだ。