我が家には家族の映像がたくさんある。
8ミリフィルム、ベータビデオ、8ミリビデオ、デジタル8ミリ。
管理が大変だ。
カメラファンではない。
写真撮影にはまったく関心がなかったが、結婚してすぐ8ミリ撮影機を買った。
家内の父が、私たちの結婚式を8ミリで撮影した。
その撮影機を新婚旅行に持って行けと言われて、気が進まなかったが持って行った。
帰ると、結婚式のフィルムができていて映像を見た。
私たちや両親や伯父や伯母たちの動く姿が面白いと思った。
自分で撮影した新婚旅行の映像も面白いと思った。
何が面白いかと言われるかもしれないが、面白いと思ったのだからしかたがない。
早速、近くのスーパーの「カメラのナニワ」に買いに行った。
「カメラのプロ」という感じの、頭のはげた小柄な店長のおすすめは、ベルハウエルというメーカーの「高級機」だった。
初めて撮影したのは、母と家内がおせち料理を作る姿だ。
店長には色々教えてもらった。
なまりのある大阪弁で、誠実な人という感じがした。
子供ができたことを話したら、店長は、「子供の姿を撮影するのは親の義務やで!」と叫んだ。
宗教的信念、という感じだった。
信念は迷惑なこともある。
ある人が書いていたのだが、その人の父親は8ミリファンで家族の映像をとることに熱心だった。
家族旅行となると、子供たちが家を出るところからきちんと順番に撮影する。
カメラの方を見ると叱られる。
嫌でたまらなかったそうだ。
私も、娘たちがままごと遊びをするのを撮影していて、「こっち向いて」と言ったら、長女に、「パパ!あっちに行ってて!私たち、いそがしいんやからね!」と叱られてすごすごと引きさがったことがある。
店長は信念の人だった。
富士フィルムが「フジカラー400」とかいう高級フィルムを発売したときのことだ。
きれいにとれるのかと思って買いに行ったら店長が激しく一喝。
「や〜め〜と〜き〜!」
そのフィルム、あるいはそういう商法、あるいはそういう商法に乗せられることに我慢がならないという言い方だった。
いい人だったが困ったクセがあった。
時々エッチなことを言っては、若い女性店員を困らせるのだ。
それで、この店長は、何度もいい人だと思われながら、「非常にいい人」に昇格することなく、「いい人だけど困ったさん」のまま私の前から去って行った。