フィギュアスケートの世界選手権が終わった。
いろんなスポーツがあるが、見ていて一番心臓に悪い。
ジャンプの時、こけはしないかとハラハラするのも心臓に悪いし、こけろ!と呪うのも心臓に悪い。
何回転しているのかわからないのも心臓に悪い。
解説の、元メダリストが、「三回転!決まりましたネ!」と言うのはいい。
アナウンサーが、「決まった!三回転!」と叫ぶと、ホンマか!?わかっとるんか!?と思ってしまう。
我が家で、世界選手権を見た記録として残っているのは1984年である。
「育児日記」に書いてある。
5歳だった長女が、テレビを見て、廊下で練習しはじめた。
自分もあんなふうにすべれたらいいな、という気持ちが、廊下を何度かすべるうち、自分にもすべれる!という確信に変わってきたようだ。
面白がって見ていた私も、むむ、ウチの娘にはスケートの才能があるのじゃないか、と思うようになった。
廊下をすべる姿を見ていると、娘が日本フィギュアスケート界を背負って立つのではないかと思えてきた。
父と娘の気持ちがぴったりと一つになって、「スケートに行こう!」ということになった。
当時、私は大阪府親ばか連盟の有力会員であった。
その後、奈良県親ばか連盟に移籍し、先年、末の息子が成人式を迎えたのを機に惜しまれながら勇退、現在は同会の非常勤顧問として後進の育成に当たっている。
さて、私は、そのときまでに3回アイススケートをしたことがあった。
へっぴり腰ですべるので、腰に負担がかかり痛むのでやめた。
そんな私と娘がリンクに降り立った。
娘には、廊下と氷の上は違う、廊下のようにはすべれない、と言ってあった。
私は、手すりにしがみつきながらよろよろと進んだ。
後ろを見ると、娘がいない。
あわてて見回したら、なんとリンクの真ん中に立っている。
「こ、こっちに来て手すり持ちなさい!こけるよ!」
「そんなとこで手すり持ってるくらいやったら、こけたほうがましやわ!」
えらい!
これは、娘が将来世界選手権に出た暁には、重要なエピソードとして、視聴者の皆様にお伝えしなければならない、と思ったのだが、娘はこけ続け、遂に、もう帰る、と言った。
「パパが言ってたとおりやねー。廊下と氷の上はちがうんやねー」
重要エピソードとなるべき話を、ここにひっそり書くのは残念である。