若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

ワンワン!

帰りは、駅前のバスターミナルからバスに乗る。

バスの他に、送り迎えの車が出たり入ったりする。
若い人が若い人を迎えに来た場合は、簡単だ。
相手をすばやく見つける。

高齢者は、相手を見つけるまでが大変だ。
高齢者にとって、車はどれも同じに見えるのだ。

30年ほど前、会社のトラックを運転して、住宅街を走っていた。
前方で、おばあさんがこっちを見て、にこやかに手を上げた。

知っている人ではない。

おばあさんは、ニコニコと手を振って、近づいてくる。
何か困っているのかと思って、車をとめた。
おばあさんは、車体をじっと見ると、困惑した表情でぼそりと言った。

「なんや、タクシーとちがうんか」

先日、バスターミナルで待っていると、隣に70代と思える男性が立った。
迎えの車を待っているようだ。

黒っぽい乗用車が、ゆっくりとターミナルに入ってきた。
男性が手を上げた。
車は非常にゆっくり通り過ぎた。

向こうでひろうのだろう。
男性は走っていった。
車は止まらず、なおもゆっくりターミナルを移動した。
男性はどんどん追いかけていった。
車は、ついにターミナル出口に向かい、信号で止まった。

どうやら、迎えの車ではなかったようだ。
ターミナルを通り抜けるだけらしい。
しかし、男性は、あきらめきれず、というか、しつこくというか、未練がましくというか、信号待ちしている車まで走っていった。

運転席をのぞきこんで、やっと迎えの車でないと悟って、すごすごと戻ってきた。

しばらくして、その男性を迎えに来た車は、さっきの車と色は似ていたが、どこまでも追いかけるほど似ているとは思えなかった。

きのうも、迎えの車が、何台かとまっていた。
助手席に犬が乗っている車があった。
運転席には中年女性。

私の横に、老婦人がやってきた。
ケータイでしゃべっている。

「今バス停。うん・・改札を出た、あの・・・」

迎えの車と連絡を取っているのだ。
助手席の犬が、老婦人を見て、窓ガラス越しにワンワンほえだした。
運転席の奥さんは、ケータイを片手に、きょろきょろ見回している。

二人は、ケータイでしゃべりながら、相手を見つけようと一生懸命だ。
犬は助手席のガラスに、鼻をくっつけんばかりにして、ワンワンほえている。

奥さん。
こっちこっち。
あなたの愛犬が見ているほうですよ。