若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

古本

久しぶりで、アマゾン・ベストセラーランキングを見た。

名著『今日はラッキー!』(ブイツーソリューション発行:1500円)の順位は、862,019位だった。

それはよろしい。
862,019位はいいのであるが、驚いたのは、古本が出ていたことだ。
1280円である。
イチニッパー。

古本が流通するというのは、一人前ではなかろうか。
おまけに、値段が厳しい。
新本1500円で、古本1280円。
いい感じだ。

よく古本屋で、一冊50円とかで売られている本がある。
定価1500円の『今日はラッキー!』を、1280円で売ろうという古本屋さんは、本の値打ちがわかっているのだと思う。

高校のころから、古本屋に通いだした。
ウチの近くの近鉄の駅前に古本屋があった。
なぜこんなところで、というような、商店街の一角であった。
せまい細長い店で、店の奥におやじがデンとすわっていた。

おやじの趣味なのか、日本の古典が多かった。
偐紫田舎源氏』はここで買った。

あと、大正二年発行の有朋堂文庫非売品『絵本西遊記』『浮世床』は、今も手元にある。

客はほとんどいなくて、いつの間にか閉店した。
一人、常連客がいた。
私が立ち読みしてる間、よくおやじとしゃべっていた。
というか、常連客がぺらぺらしゃべり、おやじはむっつり黙っている。

私は、おやじはこの客を嫌ってるなと思っていた。
大変なインテリのように思えた。
中味は忘れたが、いつも難しい話をしていた。
客は、自分の高級な話をわかってくれるのは、このおやじくらいだと考えていたのだろう。

ひとつだけ思い出した。
客が、フランスの劇団、コメディフランセーズの日本公演を見に行った話をしていたことがある。

モリエールの劇で、客は、モリエールについていろいろしゃべっていた。
私がそっと見たら、案の定、おやじは腕を組んで、不機嫌そうな顔をしていた。

「日本人というのは困った人種ですよ。コメディフランセーズを、有難がって見てるんですからね。モリエールですよ。喜劇じゃないですか。私なんか、腹を抱えて笑いましたよ。それを、苦虫をかみつぶしたような顔をして見てるんだから」

おやじも、苦虫をかみつぶしたような顔で聞いていた。
私の脳に聞きたい。
なぜ四十年も、このときのおやじの顔をおぼえているのだ。