芸術院会員の洋画家、中山忠彦さんの回顧展に行った。
誰がつけたか知らんが、たいそうなタイトルである。
中山さんの絵を初めて見たのは、二十年ほど前だと思う。
ある銀行のカレンダーで見た。
鹿鳴館時代みたいなドレスを着た女性像だった。
うまいなあと思うと同時に、おもしろくない絵だなあと思った。
それ以来、毎年、カレンダーの鹿鳴館美人を見るたび、そう思った。
だいぶ後になって、芸術院会員の人気画家だと知った。
その、おもしろくもない絵をなぜ見に行く気になったのか。
NHKの「新日曜美術館」で、回顧展を取り上げていて、中山さんの19歳の絵を紹介していた。
それは、いい!と思った。
19歳の時、こんな魅力的な絵を描いた人が、修行を重ねておもしろくない絵を描くようになった秘密を知りたいと思ったのである。
さすが人気画家、大変な観客であった。
中高年の女性が多い。
19歳の絵は、みずみずしくてよかったし、悪戦苦闘時代の絵もよかった。
絵の具を買う金がなくて、7色だけで描いたという絵も、そんなことを感じさせない活きのよさだ。
1970年代から描きだした鹿鳴館美人の絵は、写真で見るよりはるかによかったが、おもしろくないことには変わりはなかった。
こんな絵は描きたくないが、描けるはずがないので気が楽です。
中山さんのモデルはほとんど奥さんである。
中山さんの絵がおもしろくないのは、奥さんがおもしろくなさそうな顔をしているからかもしれない。
そらそうでしょう。
ウチの奥さんなんか、一回モデルを頼んだだけでもブーブー言うのに、中山さんの奥さんは、四十年間だ。
機嫌も悪くなりますよ。
奥さんに、様々な鹿鳴館ドレスを着せて描いてある。
ドレスは変われど奥さんの顔は変わらない。
あきますね。
これは、中山さんが悪い。
私だと、「自画像シリーズ」でも、ひとつずつ顔が全然ちがうから、あきさせませんよ。
えんぴつ画で、「雅子妃殿下」という作品があった。
油絵を頼まれたときの習作だろうか。
これはよくない。
自分の奥さんは、ビクトリア女王か、王妃マリー・アントワネットみたいに描いてるのに、雅子さんは、ふつうのお嬢さんだ。
ちょっとどうかと思うと同時に、中山さんに好感を持った。