若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

アトリエ便り2

Fさんは、模範的モデルであった。

微動だにしない。はじめこそ、カチンカチンで、座っているというより、硬直している感じで、見ているのも気の毒なほどであったが、時間がたつにつれ、落ち着いた「中年女性モデル」になってきたのは結構であった。

「どこを見たらいいんですか」と聞かれて、正面のたんすの、上から二番目の引き出しの、左側の取っ手を見てくださいと、お願いした。
こういうとき、わがアトリエは楽である。

二十畳もあるような、広いアトリエだと、指示に困る。
その点、ウチは楽なもんで、正面のたんすでもいいし、左側の冷蔵庫の、冷凍庫のドアのナショナルのマークを見てくださいといってもいいし、右側の洗濯機でもいいし、上を見てほしければ、火の用心の札を見てくださいでいいし、その横の、私が小学校六年生の時の皆勤賞の賞状を見てくださいでもいいし、もっと上なら、天井からぶら下がったシャンデリアか、その隣にぶら下がったハエ取り紙を見てくださいでもいいし、目印はいろいろある。

数ある目印の中から、今回は、たんすの、上から二番目の引き出しの、左側の取っ手を見てもらった。

描き始めて、Fさんの髪の毛が、実に複雑怪奇にカールしまくってることに気づいてびっくりした。ちょっと見たことがない、くるくるチリチリのパーマである。
「複雑なパーマですね」と言ったら、「これ、天然なんです」と言われてまたビックリ。
この、見事なくるくるチリチリカールが、薬剤も用いず、加熱もせずにできるとは、人類七不思議のひとつではなかろうか、と感心している場合ではなく、これは描きにくいですよ。

その描きにくさを補って余りある、静止ぶりであった。思えば、十数年前、家族をモデルに描いたころは、家内も娘たちも、すなおに、おとなしく、じっと座っていたものだ。
それが今では・・・。
モデルになってと頼んだら、ぶーぶー文句はいうは、座ったと思ったら寝るわ、本を読みながら、「まだ!?」とせかせるは、気兼ねしながら描かせていただくという感じで、この十数年における、我が家の人間関係の変化と言うか、力関係の変化というか、私のステイタスの変化と言うか、まあ、いろんなことを感じさせてくれますよ。