きのう、はなちゃんが、目覚めのとき、私が顔を見せると、ニカーッと笑うと報告しました。
はなちゃんの、あいさつの笑顔であると報告しました。
訂正します。
今日、はなちゃんが寝ていて、そろそろ目を覚ます気配であった。
私と家内と娘、三人そろって、ドアの陰から様子をうかがっていた。
目覚めた瞬間、三人そろってはなちゃんに顔を見せて、ニカーッと笑ってもらおうという魂胆である。
そうとも知らぬはなちゃんは、もぞもぞ動いていた。
うはは、三人そろって飛び出して顔を見せたら、はなちゃんはさぞかし特大の笑顔を見せてくれるであろう。
はなちゃんが、目をパッチリ開くのを今や遅しと待ち構えていた。
何も知らないはなちゃんは、短い手を振り回してもがいている。
そして、ついにはなちゃんが、目をパッチリ開いた!
今だっ!
ドアを開けて飛び出そうとした瞬間、何たることかはなちゃんは、天井を見上げて、ニカーッと笑ったではないか!
ドアの前で、私たち三人は、こけてしまった。
私たちがこけたことも知らず、はなちゃんは、ニカーッ、ニカーッ、ニカーッと、天井を見上げて連続笑顔である。
誰がいなくても、はなちゃんは目覚めたら、ニカーッと笑うようですな。
べつにいいけど。
今日は「石膏デッサン教室」。
「アグリッパ」を描き終えて、今日からは「メディチ」。
メディチ家の御曹司らしい。
男前です。
男前ですが、髪の毛がムチャクチャだ。
どないなっとるねん。
寝癖かクセ毛か天パーか、複雑怪奇である。
先生が、「これはフィレンツェにあります」と言った。
「鹿之助さんは、フィレンツェに行かれたことはありますか?」
「ありません。私は海外に行ったことはありません」
これで五回目ですよ。
「これは、ルーブルにあります。鹿之助さんは、ルーブルに行かれたことはありますか」
「これは、ローマにあります。鹿之助さんは、ローマに行かれたことはありますか」
そのつど私は、「ありません。私は、海外に行ったことはありません」とお答えしています。
先生は、なぜ私に何度も、「海外に行ったことはありません」と言わせるのだ。