バスで。
私は、進行方向の右の席に座ってた。
反対側に、70歳くらいの女性が座ってた。
彼女は、なにかブツブツ言ってる。
ちょっとおかしい人なのであろうか。
そうは見えないが、おかしいのかもしれない。
聞き耳を立てた。
どうやら、日光について、文句を言ってるみたいだ。
その人の席は、日が当たってた。
日は当たってたが、まあ、真夏の太陽というわけじゃない。
焼き殺されるというほどではない。
が、その人は、日差しが強いとブツブツ言ってる。
非常に迷惑そうだ。
陽光を呪っているようだ。
その人は、終点のひとつ前のバス停が近づくと、「降車ボタン」を押した。
陽光を呪いつつ降りていくのか。
と思ったら、ちがいました。
「ピンポ〜ン!」とボタンを押して、バスがバス停に止まると、その人は、よっこらしょと、日の当たらない席に移動したのだ。
なるほど!
感心した。
奈良交通のバスの車内には、「危険ですから、走行中は席を立たないで下さい」と注意書きがある。
バスを止めてから席を替わったのは正しいことだ。
バス会社が、乗客の安全を守るため張り出した注意を守るえらい人だ。
終点まで一、二分であったし、その停留所から終点までは、その人の座席も日がほとんど当たらないのであるが、紫外線の恐ろしさと、走行中に席を移動することの恐ろしさを正しく認識したえらい人だと思った。