今日は、カルチャーセンター人物画教室。
地下鉄の駅で、先輩女性Tさんを見かけた。
時々いっしょになる。
Tさんは、70代後半かな、今の先生に40年習っているという超ベテランだ。
公募展にも出品していて、家では100号の大作も描く。
以前は、教室にも30号のキャンバスをかついで来ていたけれど、足が弱くなってからは、教室ではパステル画を描いている。
かなり太っていて、足元が危なっかしい。
階段の上り下りだけで、ふうふう言ってる。
ほのぼのした感じの人で、教室では、いつも低い丸い椅子に座って描いているが、一年に一、二度、バランスを崩して椅子から滑り落ちる。
滑り落ちると、恥ずかしそうに、「椅子が小さいから」と言う。
椅子はふつうですよ。
Tさんのお尻が大きすぎるんです。
地下鉄の駅をとことこ歩いてくるTさんに、「おはようございます」と三度声をかけたのに気づかない。
四回目でやっと気づいた。
「なにをぼんやりしてるんですか」
「いや・・・息子のことをね、ボーっと考えてたのよ」
息子?
Tさんは娘さんと二人暮らしで、娘が良くしてくれるという話を聞いたことがある。
「息子さんのことを?」
「うん、私ね、息子がいたんやけど、4歳と三ヶ月で白血病で死んでしもたの。今、生きてたら、どうなってたかなあて、ボーっと考えてたの」
「・・・」
「今朝、出てくるときに、娘にね、あの子が生きてたら、今ごろどうなってるやろ、て言うたら、『はげオヤジになってるワ!』やて。『もうその話は二度とせんとき』ていわれたワ」
Tさんのボンヤリに、こんな事情があろうとは思いもよらぬことであった。