〇〇君が生まれて三日目です。(特に名を秘すわけでも個人情報保護というわけでもなく、名前が決まってないだけです)
長女のおなかの中の子が男の子だとわかったとき、ちょっと気になることがあった。
去年、めでたく婚約も相整い、というころ、両家で会食した。
楽しく食事も進み話も弾み、家内が「Sさん(婚約者)は、子供のころ、どんな男の子だったんですか」といったとき、おかあさんがパッと目を伏せ、緊張の色が走ったのを私は見逃さなかった。
当たり障りのない話題と思えたのに、意外な反応であった。
話題が危険地帯に入った、という感じであった。
黙り込んだおかあさんにかわって、おとうさんが愉快そうに話し出した。
「彼が生まれたとき、うわあ、雷さんみたいな子が出てきたなあ!という感じでしたね。ほんとに、雷の子みたいでね」
か、かみなり・・・。
娘を嫁がせようという親にとっては、かなりインパクトのある言葉であった。
思わず家内と顔を見合わせた。
そしてS君を見た。
まあ、一見好青年であるが・・・。
おとうさんは楽しそうに、「雷さん」「雷さんの子」を連発する。
「雷さん」なのか「雷さんの子」なのか、いったいどっちなんですか、いや、どっちでもいいか、などと思っているうちおとうさんが、「ホントに雷さんみたいな子やったなあ」と、同意を求めるかのようにおかあさんを見た。
目を伏せて固い表情で口を閉ざしたままのおかあさんが、いったいなんと答えるか。
おかあさんは、伏せていた目を上げて、娘を見てにっこり笑い、「で、披露宴のドレスは決まったの?」
私は椅子からすべり落ちた。
「お、おかあさん!いくらなんでも強引過ぎますよ!そんな不自然な話の変えかたはないでしょう!」
「花嫁さんが主役だものね。よ〜く考えてね」
「いや、ドレスの話じゃなくて雷ですよ!」
「ウチの娘は打掛けを着たの」
「打掛けなんかどうでもいい!雷はどうなったんですか!」
こちらが何を言おうとおかあさんは徹底的に無視して、雷問題に二度と触れようとしなかった。
で、〇〇君が生まれるとき、雷問題が気にかかったのだ。
まあ、元気よく泣いていた。
娘の話では、生まれてすぐの〇〇君を身体に乗せてもらったけど、〇〇君は、どこに行くのかと思うほど、ごそごそ動いていたそうだ。
まだ、雷というよりかイナズマか。