オラニエ公ウィレムのことも知らないしオランダ独立にも関心のない私がなぜこの本を買ったのか。
著者がウエッジウッドさんだからです。
イギリスの女性歴史学者C.V.ウエッジウッド(1910〜1997)の本を3冊読んで、もっと読みたいと思ったんですが、なんせ英語なもんで気楽に次々というわけにいかない。
翻訳は出てないと思いこんでたんですが、ありました。
『ドイツ30年戦争』と『オラニエ公ウィレム』です。
どっちを買うか、迷いはなかったです。
『ドイツ30年戦争』が10500円、『オラニエ公』が4725円ということで、『オラニエ公』を選ぶのは人情というものでございましょう。
原著は1944年出版で、すぐに、スエーデン語、オランダ語、フランス語に訳され、1970年にはドイツ語訳ということですから、定評ある名著といえるでしょう。
日本語版は著者の死後10年の2008年出版、訳者のドイツ史学者瀬原義生さん80歳の時というのがすごいと思いました。
後書きで、瀬原さんは、オランダの凄惨な独立戦争と、それを指揮したオラニエ公のことを知ってもらいたい、そして、忘れられた歴史学者ウエッジウッドさんをよみがえらせたい、と記しています。
気合を感じる本です。
オラニエ公ウィレムは、ドイツの田舎の小さな領主の長男として1533年に生まれました。
当時は宗教戦争の真っ最中で血みどろの戦いが続いていたんですが、彼の父ナッサウ・ディッレンブルク伯は、複雑で過酷な国際環境の中、領民の生命財産を守るため特定秘密保護法などということは考えず、ひたすら農業の振興と教育の充実に力を注ぎ、注意深く粘り強く自国の平和を守り抜いたそうです。
その、ドイツの片田舎の、裕福でもない貴族の息子であるウィレムが、11歳の時、突然当時ヨーロッパで最も裕福と言われた貴族の領地を相続することになるんです。
今のオランダ付近です。
田舎から、当時の最先端地域の超リッチな超大邸宅に11歳の少年が単身送り込まれたんです。
さて少年の運命は?というとこですが、運が良かったんですね。
当時の超大国スペイン国王にして神聖ローマ帝国皇帝カール5世と、その代理人としてオランダを統治していたカール5世の妹マリアさんに、「ぼうやぼうや」と、とっても可愛がられるんです。
これは強い。
それほど魅力あふれる純朴で活発な少年だったようです。
20年後、立派に成人したウィレムが、この二人の大恩人を裏切るかのように、超大国スペインに凄まじい戦いを挑むことになろうとは、お釈迦様でも、じゃなかった、キリスト様でも気がつくまいというとこです。
例によって、ウエッジウッドさんの小ネタ(失礼)が面白いです。
ウィレムは最初の奥さんを亡くしたあと、次の候補を探します。
彼の地位からして、どんな女性でもゲットできたのですが、ロレーヌの若い公女に目をつけた。
ところが、この公女のお母さんが未亡人で、「あなたには娘より私のほうがふさわしいと思いますワ」としゃしゃり出てきたので、ウィレムはあわてて逃げてきたそうです。
オランダ独立戦争?
う〜ん、どうなるんでしょうか。