きのうは、高校時代の美術部の友人Sくんの個展に行きました。
国立大学の美術系の教授を退職して、やっと自由で気楽な身分になれたというんですが、私が、国立大学の教授なんてず〜っと自由で気楽な身分だったんじゃないかというと、機嫌悪いです。
彼の個展はギネスブックものです。
何百回か、自分でもわかってないと思う。
楽々と絵が描けてしまうというのも大変ですよ。
最近バイオリンを始めたというのは聞いてました。
かなりはまってるようです。
何台か買ったようです。
会場には、一番最近買ったというバイオリンが置いてありました。
新品で、きれいなケースに入って、弓もついて、教則ビデオもついて、7800円だったそうです。
「7800円!?音、出るのか?」と言ってから、しまった!と思ったけど、おそかった。
Sくんは、うれしそうな顔をして、バイオリンを取り出した。
そして、いろいろ説明する。
くどくど説明する、といったほうがいいかも知れない。
くどくど説明してるうちはまだよかった。
説明しながら、バイオリンをあごではさんで、弓を持った。
ルックス的には、決まってると思いました。
一応、アーチスト風の男です。
学生時代は、沢田研二に似てると、自分で言ってた男です。
たしかに、太り方も今の沢田研二に似てると思います。
弓を持って立ってるうちはまだよかった。
くどくど説明しながら、キーキー鳴らし始めた。
耳障りで不愉快な音だと思ってたら、「けっこういい音するやろ」と言ったのでこけそうになった。
さすがに美術系だとあらためて感心した。
バイオリンは板がどうの塗装がどうの弦がどうの弓がどうのと説明しながらキーキー鳴らし続ける。
ほかの客に迷惑じゃないかと心配するのは素人の浅はかさで、私のほかに客なんかいません。
なんの心配もなくキーキー鳴らしてるうちはまだよかった。
キーキー鳴らしながらSくんがうれしそうに、「メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲ホ短調作品64を弾く」と言ったのには再びこけそうになった。
ユーチューブで練習してるそうです。
独学で、メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲ホ短調作品64がどのていど弾けるのか、こわいもの見たさ、じゃなかったこわいもの聞きたさかな。
キーキー鳴らしながら、うれしそうな表情から真剣な表情に変わりました。
さあ、皆様、お待たせしました!
7800円のバイオリン、68歳男性独学メンデルスゾーンバイオリン協奏曲!
表情は変わったけど、相変わらずキーキー耳障りな音を鳴らし続ける。
じらしてるつもりかな。
「早く弾けよ」と言ったら、ムッとした顔で、「もう弾いてるやん!」と言ったので、またもやこけそうになった。
こわい顔をしてバイオリンをケースにしまったのでほっとしました。
ほっとした次の瞬間ぞっとしました。
バイオリンの音がまだ聞こえるんです。
キーキーと。
Sくんの7800円メンデルスゾーンバイオリン協奏曲の呪いの幻聴か!?
ちがいました。
画廊の女性が、回転椅子にすわって左右に動かしてたんです。
回転椅子がキーキー鳴る音だったんです。
回転椅子の音といっしょか!と感動しました。