バスに乗ったら、大きな話し声が聞こえてきました。
バス中に聞こえるような、男性の大きな声です。
声は大きいけど、途切れ途切れの、ぎくしゃくした話し方です。
声の方を見たら、私と同年配の、目の不自由な方でした。
後ろの座席の、70代後半と思える女性と話をしてたんです。
盗み聞きするまでもなく聞こえてくる。
女性は、男性が通っている施設で点訳奉仕をしている。
ちょっと知ってるという間柄のようです。
バスに乗って、女性に話しかけられて、男性は一瞬だれかととまどった。
女性は、バス停に向かって歩く男性の後ろから歩いていたと言った。
「そ・・・それやったら・・・声・・・かけて・・・く、くれはったら・・・よかったのに」
大きい声なんですが、自分の言いたいことをはっきり伝えなければ、という気合が感じられて好感が持てます。
「お声かけようかと思ったんですけどね、突然お声かけて、びっくりして転ばれる方もあるそうなんで、遠慮してたんです」
「そ・・・そういうこと・・・あるんです。あ、歩いてて・・・突然声をかけられて・・・緊張して、バランス崩して・・・こけることがあるんです」
「ほかの方から、そういうお話聞いてましたので・・・」
「ああ、ぼくだけじゃないんですね」
どちらへお出かけですかと聞かれて、男性は買い物と答えた。
「いいですね」
「イヤ、食料品とか、今日は5パーセント引きなんで」
男性は、お姉さんと二人暮らしで、お姉さんが骨折して3ヶ月入院、今はリハビリ中で、かわりに買い物だという。
「たいへんですねえ」
「せめて、姉の足のかわりになってやりたいと思うんですが・・・」
バスをおりて、杖をついて歩いて行く男性の後姿に、私にしては珍しく、身の引き締まる思いがしました。