『北方ルネッサンス』に、版画の話が出てきます。
版画も、大発明だったんですね。
大量生産できる。
金持ちでなくても買える。
キリスト教は「一神教」というけど、守護聖人というのがたくさんいます。
仏教の「なんとか観音」とか「なんとか菩薩」みたいなもんですか。
たとえば、「旅人の守護聖人」というのがある。
旅人を守ってくれるんです。
その姿を版画にする。
当時の旅は危険です。
旅に出る人が、「旅人の守護聖人像」を欲しがる。
版画にして売り出す。
売れる。
もうかる。
版画の始まりは、金属板浮き彫りの品質管理だそうです。
金属板浮き彫りという分野は昔からあった。
特徴は、長持ちするということでしょう。
長持ちするというのも、大事なことですよ。
この時代に油絵を贈られた人が、もっと長持ちする素材ならよかったのに、と言ってます。
で、言われた人が、金属のメダルを贈ってます。
ただ、金属作品なら長持ちするとは限らない。
金細工職人がぼやいてます。
精魂込めて作った金細工を、持ち主が金に困るとつぶしてして金塊にして売ってしまうんです。
そういうわけで、金の工芸品は残ってるのが少ないそうです。
さて、金属浮き彫りです。
金属に彫ると、うまく彫れているかどうか見分けがつきにくい。
で、仕上がりにインキをつけて紙に押し付ける。
黒白でわかりやすい。
それが版画の始まりだそうです。
元々は、チェックシートなんですね。
それが「売れる!」と気づいた人がいたんです。
この本に、いろんな版画が出てきます。
一つ不思議なのがあります。
「宙づりになったバスケットの中のウエルゲリウス」というんです。
ウエルゲリウスというのは、紀元前1世紀のローマの大詩人で、叙事詩「アエネイス」はラテン文学の最高傑作と言われてますが、もちろん読んだことない。
何階建てかの建物の壁の真ん中あたりにバスケットがぶら下がってて、その中にウエルゲリウスが入ってる。
これは有名な話だそうです。
大詩人ウエルゲリウスは、時のローマ皇帝アウグストウスの娘に恋をした。
完全な片思いであった。
娘は、大詩人をからかってやろうと思った。
「今夜、私の寝室の窓の下にバスケットを置いておきます。それに入って合図してください。引き上げてあげましょう」
ウエルゲリウスは喜び勇んでバスケットに乗り込んで合図をした。
ロープがするすると引きあげられて、ウエルゲリウスは大喜び。
ところが、ロープは途中で止まっちゃった。
飛び降りるには高すぎて、困ってるうちに朝になって、ウエルゲリウスはローマ市民の笑いものになったという有名なお話を版画にしたんです。
イヤな話である。
女性の力を示す話だというんですが、女性の意地悪さを示す話だと思います。