若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

祇園の料亭にて

 祇園の料亭で、得意先業界の全国大会が開かれた。
大広間での宴会。隣の人が名刺をくれた。東京から来た、某大手企業の営業部長であった。
「いや〜!京都はいいですね〜。空気が違います。なんか、しっとりしてますもんね。京都の中でも、この祇園!やっぱり祇園ですよね。いいですね〜!情緒がありますよね〜」
 よ〜しゃべる男やな。

 舞妓さんが来た。
「いや〜!舞妓さん!初めてなんですよ!いいですね〜!きれいですね〜!日本女性の美しさの原点ですね!そう思いません?」
 思わん。

 年輩の女性がお酌に来た。その女性に、祇園のしきたりみたいなことを色々質問してる。そして、いちいち、「へー!」「ほー!」「はー!」と奇声を発して感心してる。
 その女性が、私なんか、ココが(と自分の顔を指して)良くないので、みたいな事を言ったら、男は目を丸くして大そうに
「い〜やいやいや!と〜んでもない!ナーニをおっしゃる!昔、散々浮名を流したクチじゃありませんか!?面影が偲ばれます、ハイ」
 この男、調子が良すぎる。うさんくさい。私は、ポケットの財布を確かめた。

 その女性が呼ばれて舞台に行った。三味線を弾きはじめた。舞妓さんが「祇園小唄」を踊り出した。
 と、男が突然立ち上がった。舞台の方にすっ飛んでいった。私は、もう一度財布を確かめた。
 トイレにでも行くのかと思ったら、なんと、彼は舞台正面に正座した。祇園小唄を食いつくように鑑賞している。正座して。

 終わると、その女性がまたお酌に来た。
「いやー!いいですねー!芸ですよね、芸!年季が違いますよね。あれなんですってね、踊りっていうのは、三味線がメインなんですってね。おねえさんの三味線がなけりゃ、はじまらないんですよね」

 次に、かなり貫禄のある色っぽい女性がお酌に来た。お茶屋のおかみさんということであった。
 「この祇園で!お店を!いや〜!やっぱりちがいますね〜。どことなく違います!さすがです!祇園は、一見さんはダメなんですよね。アノ、ココに(と箸袋を出して)一筆お願いします」
 女性が名前を書いた。
「いやー!有難うございます!コレコレ!祇園ではコレがものを言うんですよね!コレが!あなたも書いてもらいなさい」
 大きなお世話じゃ。
「おかみさん、この人にも書いてあげてください。お願いします」
 いらんちゅうのに!