前に書きましたが、うちの近所に墓石屋さんができたのです。
バス通りに面して、ショウウインドウになってます。
夜、暗闇の中に墓石が三基、かすかなライティングで、ほのかに照らし出されて浮かび上がっている様は、おしゃれな感じを狙ったものか、不気味さを狙っているのか、判断に苦しむところである。
私の趣味としては、コンピュータ技術を駆使して、人魂を飛ばすなり、レーザー光線を乱舞させるなり、もう少し派手目の演出がほしいと思う。
しかるに、この墓石屋さんは、そういうことはせず、なんと、ショウウインドウの前に、ポストを立てた。
郵便受けである。
それはよい。郵便受けを設置するのはよろしい。
問題は、郵便受けの材質である。
墓石と同じ石でできている。
墓石の前に、墓石と同じ石のポストが立っている。
霊界通信。
郵政公社管轄外。
霊界からの便りが届くのであろう。
死者たちの、万感の思いを込めた便りが届くのであろう。
墓石屋の近くに酒屋がある。
酒屋の二階で書道教室を開くという張り紙。
半紙に筆で書いてある。
「書道教室。字をたくさん知りたいね。きれいな字を書けたらいいね」
この字が、実に下手な字なのである。
この人自身が、きれいな字が書けたらいいな、と思っているのではないか。
下手な字といえば。
電車が、S駅近くの商店街の裏を通るときに見える、いつも気になる看板の字。
魚屋さんの看板である。
板に筆で書いてある。手作りということが丸わかりの、ちゃちな看板である。
こう書いてある。
「○○魚店。字はまずいが、魚はうまい」
ホントーに、下手!と言うほかない字である。
「字はまずいが」まで読んだ時、誰もが「そうだ!」と大声で叫びたくなる。
そして、「魚はうまい」を読んだとき、つられて、「そうだ!」と言いそうになる。
それが狙いであろう。
少なくとも、「そうだろうな・・・」くらいは思ってしまう。
「字はまずいが」というのが、実に巧妙な伏線になっていると思う。
この魚屋さんは、相当に心理学を勉強した人か、単に字が下手なだけの人かのどちらかであろう。