若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

フレッド・ブラッシー

朝刊の死亡記事。

プロレスラーだったフレッド・ブラッシーさん。

子供の頃、私はプロレスファンであった。
フレッド・ブラッシーこそ私が知っている中で最も凶悪なプロレスラーであったと断言できる。
私にとって憎んでも憎みきれない男である。テロリストどころではない。
日本中の子供たちの憎しみを一身に集めていたのではないか。

この男、白昼堂々と、ではなかったが夜八時過ぎ、所はたとえば大阪府立体育館、満場の観衆注視の中、おまけにテレビ中継中であるにもかかわらず公然とルールを無視し反則の限りを尽くし、観衆の野次、怒号を楽しむかのようにますますたけり狂い、相手の首を絞め髪の毛を引きむしり、殴り、蹴り、目玉をつっつき、それだけでは己の血に飢えた獣性を満足させることができないとでも言うのか、なんと、牙をむき出して相手に噛みつき、吹き出す血を見て初めて満ち足りたかのように不気味な笑いを浮かべるのであった!

とんでもない男であった。
私は、はらわたが煮えくり返る思いでテレビを見ていた。
これほどの不正、悪逆非道が許されていいのか?!
神も仏もないのか!?
日本は法治国家ではないのか?!

レフェリーが、沖しきな(どんな字だったか忘れました)という人で、この人がまた、実に人のよさそうな顔のおじさんなのであった。
沖しきなさんの人の良さに付け込んで、フレッド・ブラッシーをはじめとする外国人レスラーたちはやりたい放題なのであった。

私は、テレビを見ながら、「反則や!」と叫んだ。
国語学者金田一京助博士もプロレスファンで、テレビを見ながら、上品に、「反則よ!反則よ!」と叫んでおられたらしい。

父に訴えると、父は「プロレスは芝居や」と言った。
私は父が何を言っているのかわからなかった。

いつだったかジャイアント馬場アントニオ猪木がテレビに出ていた。
アナウンサーが、「プロレスは真剣勝負じゃないという人がいますが?」と質問した。
ジャイアント馬場アントニオ猪木はキッとアナウンサーをにらみつけた。
「そんなこと言うんなら、いつでもかかってきてください!相手になります!」
アナウンサーの顔色が変わった。
「い、いや、私が言ってるんじゃないんで・・・」

「噛み付きブラッシー」は、家庭では子煩悩な父親で、子供たちを噛まずになめるようにかわいがっていたそうです。