母のいる施設で。
94歳の半分眠っているようなMさん。
私の顔を見ると、ニコニコして手を振ってくれる。
母は、私を見ても知らん顔である。
「にいちゃん、ようもうけてるか?」
「いやMさんほどじゃありません」
一年ほど前までは、二人で「あんたの方が金持ち」と言いあって、大いに盛り上がったものですが、Mさんにそんな元気はなくなりました。
それでも私のシャツを見て
「にいちゃん、ピンクのシャツやな。ピンクはええなあ。ウチのにいちゃんなんか、そんシャツよう着んわ」
「Mさんも、ピンクの服どうですか?」
「こんなばあさんになったらあかん」
同じく94歳のYさんと話す。
Yさんがまともに話ができると知ったのは最近なので、あまり情報がない。
「Yさんは、小学校はどちらですか?」
「加古川です」
「裁縫あったでしょう」
「ありましたよ」
「得意でしたか?」
「い〜え〜!全然ダメ!」
「苦手だったんですか」
「苦手でしたね」
「Yさんは何かお仕事されてたんですか」
「はい、小学校でね、裁縫の先生してました」
「???ということは、女子師範を出たんですか」
「いや、検定試験を通ったんです。昔は先生になるのに、検定試験があったんです」
たぶん本当でしょう。
ここで私の必殺技。
「Yさん、肩もみましょうか」
Yさんは、私が驚くほどの大げさな身振りで手を左右に振ってから、両手を合わせて
「いやー!まあ!もったいない!そーんな、けっこうです!まーーー!もーったいない!いやまあ、そんな!まーーー!もーったいない」
よーしっ!これほどもったいながられると、値打ちがあるではないか!
張り切ってもませていただきました。
もみ終わったとき、知らん顔だったのは少々物足りなかった。