タバコをいつすい始めたのかは記憶にないが、初めて酒を飲んだ日のことははっきり覚えている。
高校2年の2学期の終業式、12月24日である。
その日、またもやU君と、そしてもう一人O君と喫茶店でタバコをすっていた。
どういうわけか、酒を飲もうということになった。
40年前、高校生が外で酒を飲むのは大変であった。
O君も、U君同様、「家出ヒッチハイク」という輝かしい経歴の持ち主であったが、酒に関しては慎重であった。
信貴山の山の中で飲もうということになった。
麻薬なみである。
電車に30分ほど乗って、支線に乗り換えて、小さな駅で降りた。
駅前の酒屋で、焼酎の四合瓶を買った。
すでにあたりは暗く、焼酎の四合瓶をぶら下げて山へ向かう三人の高校生を、酒屋さんはどう思っていただろうか。
12月24日の夜、山林で酒盛りは始まった。
酒盛りと言っても、焼酎をラッパ飲みするだけである。
U君は、飲めない体質らしく、すぐダウンしたので、二人で飲んだ。
O君も私もご機嫌であった。
大声で歌を歌った。
帰りは、近くの支線の駅ではなく、30分ほど歩いて本線の駅まで行った。
酔った勢いで、楽しく歌いながら歩いた。
電車に乗ってすぐ、この電車はおかしいと思った。
異様に揺れる。異様に熱い。
おかげで気分が悪くなってきた。
焼酎のせいだとは思わなかった。
電車を降りて家へ向かう道で、ますます気分が悪くなってきた。
帰ると、母が食事は、と聞くので、気分が悪いからいらないと答えた。風呂も入らずにすぐ寝ると言うと、母は風邪をひいたのだろうと言った。
そうかもしれない、と答えた。
胸がむかむかする。気分が悪い。早く寝たい。
母が、「クリスマスケーキだけでも食べなさい」と言った。
オエッ!
いらないと言ったら、怪しまれて酒を飲んだことがばれるかもしれないと思って、私は、むかつきをおさえながら必死でクリスマスケーキを食べた。
用心のため、枕元に洗面器を置いて寝た。
布団に入って五分もしないうちに、その洗面器には、焼酎とクリスマスケーキの混合物が入っていた。
備えあれば憂いなし。
翌朝、母が言った。
「あんた、お酒飲んだの?お父さんに言うたら、『そら、酒飲んだんやろ』と言うてはったけど」