昨日、友人と飲む。
火事で焼けた法善寺横町の行きつけのバーが再開したので行こうということになったのである。
難波の地下鉄改札付近で待ち合わせた。
いつもの事ながら人通りが激しい。
柱のそばで、行き交う人々をぼんやり見ていたら、こちらへ向ってくるカップルが気になった。
さっさと歩く人々の中で、非常にゆっくり歩いている。
ゆっくりすぎて気になる。
背の高い、野球帽をかぶったかっこいい青年と若い女性である。
二人とも好感が持てる。
ニコニコ話しながら、非常にゆっくり歩いている。
私の近くで立ち止まった。
女性の声だけが切れ切れに聞こえる。
「おいくつですか?・・・・えっ、そうなんですか?・・・・すごーい!・・・カンロクですねー」
親しいカップルではなさそうである。
私は耳をそばだてて会話を聞こうとしたが、騒がしくてよく聞こえない。
女性が、私のいる柱のあたりを指した。
ここは人通りの真ん中だから、あそこで話しましょうと言ったのだろう。
近づいてくる二人を、喜んで待ち構えた。
私から一、二歩離れた所で、女性が私に背を向けて立った。
やはり話し声はよく聞こえない。
この地下街は、音響的に問題がある。
私は、さりげなく女性の背後に忍び寄った。
「こんなの持ってるんですけど・・・ちょっと見てもらっていいです?」
私は、横目で見た。小さなアルバムのようなものをひろげていた。
「こういうの、ご存知ですか?」
「ああ、見たことありますね」
「そうですか!」
私は、横目で見るのはやめて、危険覚悟で、女性の肩越しに首を伸ばして大胆にのぞきこんだ。
どこかで見たことがあるような、たぶん有名な作家のシルクスクリーンの版画だった。
版画を売りつけようというのか?
ごく普通の女の子に見えるが。
改めて彼女を見た。
スカートに名札のようなものを付けているではないか。販売員であることを隠しているわけではなさそうである。
このかっこいい青年が、なぜこんなに楽しそうに話を続けているのか不思議に思った。
その時、私の友人が現れた。
「んもー!ええとこやったのに!」
「??なにが?」