若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

そんなことをして何が面白い!?

朝の電車で。

私は、ドアのところで立って本を読んでいる。
ドア近くの座席には、いつも同じ男性が座っている。
40歳くらいのサラリーマン風の人である。
以前は、日本経済新聞を読んでいた。
横方向に四つにたたんで、非常に縦長にして読んでいた。

一月ほど前、その人の前に立った男性が本を読んでいた。
本のしおりの紐が、非常に縦長の日本経済新聞の上端に触れた。
日本経済新聞の人は、読書の男性に文句を言った。

変わった人だと思った。
しおりの紐は、1メートルも垂れ下がっているわけではないのだ。
日本経済新聞を下げろ。

最近、その人は日本経済新聞をやめてクロスワードパズルの雑誌を読んでいる。
はた迷惑でなくてよろしい。

伯母が遺した日記の中に、女学校時代の夏休みの日記があった。
大正14年だったか。何かの本の付録の「夏休み日記帳」に書いたものである。
本の付録と言っても、今の感覚で言うと、ペラペラのガリ版刷りみたいなものではあるが、そこにクロスワードパズルがついていた。
非常に簡単なものであったが、一ヶ所わからないところがあった。
「太平洋に面した国の名」で、二文字である。

「チリ」でも「シナ」でもあてはまらない。
答は、「とさ」であった。「土佐」です。
大正時代には、「国の名」というと、土佐とか、豊後とか、越後とかを思い浮かべたらしい。

今朝、その人は、非常に忙しく首を動かし、手を動かしていた。
開いているページは方眼紙のようになっていた。5ミリくらいの細かい四角がぎっしり。左と上に暗号のような数字が書いてあって、それを見てはせかせかと鉛筆で四角を塗りつぶしている。

何をしているのか?
そのページのタイトルを見ると、
アメリカから来ました。絵解きを完成すると、海外のCMキャラクターが現れます。グリーンジャイアンツ、MAM’s、トニーザタイガーのいずれかです」と書いてある。

その三つが何か、私は知らないが、とにかく、答はわかっているのである。
その絵を浮かび上がらせるために、この人は朝の七時から、せかせかと鉛筆を動かしているのだ。

私は、彼の肩をつかんで激しく揺さぶって、
「しかりしろ!そんなことをして何が面白い!?」
と言いたかったがやめた。

下手なエレキギターを弾いているところをこの人に見つかって、肩をつかまれて激しく揺さぶられるのはイヤだから。