若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

やすらかにお眠りください

母が入居している施設に行く。

Aさんが亡くなられた事を聞いた。
この方も印象深い女性であった。

母が入居した7年前にはまだ60代だったと思う。
私が、初めてこの「要介護老人ホーム」を訪れた時、Aさんはスーツを着て、受け付け付近に立っておられた。
堂々たる女性であるな、立派な方だな、と思った。
この施設の理事長かな、と思った。

軽く頭を下げて横切る私に、Aさんはニッコリと微笑んで会釈された。

あとで、Aさんが入居者だと聞いて驚いた。

Aさんは、女性経営者であった。
頭の破壊度としては、相当ひどい方であったが、それが表情には出ていなかった。
一人で、トランプ占いのようなことをしておられた。

この施設で痛切に思うことの一つに、人間は男と女だ、という当たり前のことがある。
Aさんは、施設の職員など、女性には厳しかった。そして、私など、「若い男」には優しかった。
「正気」の人がそういう接し方をするのは嫌なものだが、ここで見ると、それが人間の基本だ!という感じがして、全面的に納得、肯定してしまう。

うちの息子が小学校4年のとき、ここに連れてきたことがある。
Aさんは、息子を見てニコニコしながら、
「あんた、きれいやなー」と言われた。
息子は、ひっくりかえり、のたうって照れていた。
のたうつ息子を見て、Aさんは何度も
「あんた、きれいやなー」と言われた。
息子は、その都度ひっくり返り、のたうって照れていた。

Aさんの、症状の進行はひどかった。
これほど無惨な人を知らない。
「堂々たる女性」と見えた人が、あっという間に見るに忍びない状態になられた。
やせ衰え、動物的な唸り声を発するようになられた。

人間、こんなになっても生きていなければならないのかと思った。
それでも、ご主人は通ってこられていた。

今日、Aさんが亡くなられたと聞いて、私は心からほっとした。
なんのためらいもなく、ご苦労様でした、安らかにお眠りください、と言いたい。