朝の駅での演説。
いつもヘンなこと言う県会議員のTさんだ。
今朝は何を言ってくれるのかと、期待しながら改札口へと向かう。
「県予算の支出に関しましては、厳正に精査をいたし」
おっ!まとも!
「県立図書館等に対するご要望」
むむ。
「高齢化社会に向けての取り組み」
・・・
「バリアフリーの実現を目指しまして」
・・・
「ええ、公共交通機関の整備等につき」
もっともらしい言葉を並べてるだけではないか。
まともに聞いている人はいないと思っているのだろうが、ワシの耳はごまかせんぞ!
同じ駅で降りる人たちの中に、少しだけ変わった人がいる。
40才くらいのサラリーマン風の人である。
やせていて、いつも黒い背広を着ている。
ちょっと前かがみになって、手を振らずに、ペタペタという感じで歩く姿が少しヘンな感じなのである。
その、ヘンな感じにアクセントをつけているのが、リュックサックである。
その人は、若者が担ぐようなリュックをかついでいるのだ。
アタッシュケースを持っているなら、もう少しふつうの感じがすると思う。
その人は、いつも黒い背広を着てリュックを担いで、前かがみになってさびしそうに歩く。
今朝、彼は私のかなり前方を階段を下りて行った。
駅の高架下は商店街であるが、8時前なので店は閉まっている。
その中で、薬局だけが、いつも3枚のシャッターのうち1枚だけ開けて開店準備をしている。
私の前を歩くリュックの人が、薬局の開いたシャッターの前でぴたっと立ち止まった。
前傾姿勢を保ったまま、じーっと店内をのぞき込んでいる。
微動だにしない。
能役者みたいである。
近づきながら私は考えた。
この人は何か買うのか?
準備中だから迷っているのか?
じーっと一点を見つめている。
ついに追いついて追い越しざまに私は彼がのぞき込んでいる方向を見た。
ドリンク剤が山積みのコーナーであった。
山積みされているドリンク剤は、「与滋元」という名前だった。
この人は、「与滋元」の山を見つめていたのだ。
「与滋元」が飲みたいのか。
効きそうな名前だなあと感心していたのか。
シャレたネーミングだなあと感心していたのか。
この漢字が意味するところを解き明かそうと頭をひねっていたのか。
私が振り返った時も、彼は「与滋元」を見つめていた。