若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

電車の中のギリシャ哲学

昨日、発表会の帰りの電車でのできごと。

夜十時前であった。
一番後ろの車両に乗って、立って本を読んでいた。

若い男が乗ってきた。
顔はごくふつうに見えたが、若い女性が座っている横の、わずかな空間に無理やり座った。
女性は驚いて、立って向こうへ行ってしまった。
男は、顔を片手で覆うようにして、小声で何か言いながら身体を前後に激しくゆすりだした。
隣の若い女性も席を立った。
男は、そこに持っていたポリ袋を置いた。
お菓子やカップ麺が入っていた。

次の駅に止まった。
乗ってきた人達は、その男の隣に座ろうとはしなかった。
60歳くらいのサラリーマン風男性がやってきて、ポリ袋をどけて座ろうとした。
かなり酔っていた。

若い男は、片手で自分のポリ袋を守るようにして、もう一方の手で酔っ払いが座るのを拒否する仕草をした。
酔っ払いは、仕方なくつり革をつかんで、「なんじゃ!おまえ、頭おかしいんか!」とはき捨てるように言った。
そして、携帯電話を取り出して、何か打ち始めた。

「席が空いてるのに、頭のおかしい男がいて座れない」と送信したのだろうか。

よほど腹が立ったのか、また、「なんじゃ!頭おかしいんか!」と言った。
すると、男はポリ袋を持って、立ち上がると、さっさと一番後ろの座席に行って、わずかな隙間に無理やり座った。

今度は誰も立たなかった。
座っていた一人が車掌室をノックした。
車掌が顔を出したが、何か言ってすぐ引っ込んだ。

すると、おかしい男は席を立って、若いお父さんが3才くらいの男の子と座っているところへ行って、男の子を押しのけて座った。
男の子は、お父さんのひざに座って、片手で顔を覆って前後に激しく動く男をまじまじと見ていた。
お父さんは、息子の顔をつかんで、なんとかその男の方を見せないようにしていた。

ここが、村の中で、皆がその男を知っているならなんと言うことのない出来事であると思った。

私は本に目をやった。
プラトンの「プロタゴラス」である。
私は、若いときからギリシャ哲学にひかれ、特にプラトンは座右の書として人生の節目ごとにこれを紐解くというような男ではない。

こう書いてあった。

誰かの欠点が、生まれつきによるものである場合、人はこれを叱ったり非難したりせず、気の毒に思うだけである。

プラトンも電車の中でこういう情景を目撃したのであろうか。