若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

高校生放火殺人

こういう事件があるたびA君を思い出す。
次女と幼稚園と小学校がいっしょだった子だ。
幼稚園のころ娘はA君を「悪い子」と言っていた。
突然たたいたり突き飛ばしたりする。

母親がとんでもない教育ママで、幼稚園に入る前から塾に通わせていた。
それはだけなら普通の教育ママだ。
なんと、A君の後に女の子が生まれたのだが、「私は息子の教育に専念する」と言って、娘は自分の親に預けっぱなしなのだ。

一年生の時次女と同じ組だった。
A君は授業中よく居眠りをした。
夜中の一時二時まで勉強しているのだ。

どういうわけかこの奥さんは家内に親近感を持ったようで色々話を聞かされた。
隣が酒屋で、酒のビンの積み下ろしの音がうるさくて勉強の邪魔になると怒鳴り込んだことがあるそうだ。
酒屋の主人は、「ウチもこれで食べてるんで」と言った。
奥さんは「息子の勉強の邪魔になると言ってるのに、そんな言い草がありますか!」と怒っていた。

環境が悪いといって四回引越した。
静かなマンションをと思って、「ピアノが気にならない所を」と言ったら、不動産業者がどう勘違いしたのか、引っ越してみたら音大生専門のマンションだった。
楽器の練習の音がうるさくてすぐ引っ越した。

次女が三年生の時私たちは奈良に引っ越したのでA君のその後は知らなかった。
ご主人はおとなしくいかにも気の弱そうなサラリーマンという感じだったし、受験がからんだ事件が報道されるたび、A君の家庭はどうなっているだろうかと思った。

数年前、家内がデパートを歩いていると大声で名前を呼ばれた。
A君のお母さんだった。
デパート中に響き渡るような声で、「奥さん!息子、東大の医学部に入ったのよ!」と駆け寄ってきた。
今は奈良に住んでいて、息子が関西で開業して同居するのが夢だと語った。

三、四年前、謎の年賀状が来た。
「息子との同居はあきらめ、老後は夫婦でハワイで暮らします」

奈良近鉄に噴水広場がある。
夜通ると若いカップルがベンチに座っている。
ある夜、私は若い男女の中に中年男性がぽつんと座っているのに気づいた。
A君のお父さんだった。

お父さんは缶ジュースを飲みながらパンを食べていた。
ばつが悪そうに、「残業だから夕食はいらないと言ってあったのに早く済んだので」と言った。

夜のワイキキの浜辺で一人パンを食べるお父さんの姿が目に浮かんだ。