9月のヤマハの発表会で、ベンチャーズの「10番街の殺人」を弾こうと思う。
私にとっては重大な決心である。
高校の時、ベンチャーズによってエレキギターサウンドの洗礼を受けた。
十数年前エレキギターを習い始める時、「半年ほど習ってベンチャーズの曲を1曲弾けるようになったらやめよう」などと浅はかなことを考えていた。
半年ではマトモな音も出せなかった。
ある程度弾けるようになってからもベンチャーズの曲を弾く気にはならなかった。
ベンチャーズをやるからにはカンペキに弾かなければ、と思うからだ。
これまで幾多のステージで数々の名曲を弾きそこない、ヘンな音を出し、度忘れ立ち往生してきたくせに今さら何を言うかと思われるだろう。
もっともである。
高校のころは大好きだったが、「ベンチャーズ命」というほどのファンではないし、特別の思い入れもないはずだが、「初恋の人」に再会する緊張感みたいなものだろうか。
「10番街の殺人」はドラム科のIさんの選曲である。
Iさんは私よりいくつか年下で、「ベンチャーズ命」の人だ。
教室にIさんが「10番街の殺人」をたたきたいので、ギター、ベース募集という張り紙を出した。
それを見たときも弾く気はしなかった。
カンペキに弾けるはずがないからだ。
一週間ほどして、ふと今回これを弾かなければ一生後悔するかもしれないと思った。
おおげさである。
おおげさであるがどうしても弾くべきである、弾かねばならぬと思ったのである。
エレキギターの魅力を教えてくれたベンチャーズに対するせめてもの恩返しである。
ますますたいそうになってくる。
私が弾くというと、Iさんがいやがるかもしれない。
なにしろ「ベンチャーズ命」の人だ。
先週、メンバー募集の張り紙のギターの欄に私の名前を書いた。
ひょっとするとIさんが消しているかもしれない。
心配である。