駅の近くの三階建てくらいの建物の屋上に、巨大な広告塔がある。
縦横数メートルの箱型のもので、昔から四面とも映画の看板が取り付けてあった。
電車からは、四枚のうち二枚の看板が見える。
私が子供のころからのなじみの広告塔である。
台風の前には、看板がはずされる。
丸太の木組みだけになった広告塔を見ると、なんとなく緊張したものである。
ハデでけばけばしい絵で威容を誇ったこの広告塔も、いつごろからか、看板が電車に面した二面だけになり、最近では、一面だけになっていた。
海賊映画の看板がさびしげにかかっていた。
今朝見ると、昨日まで海賊と美女が描かれていた看板が白く塗りつぶされて、「広告募集」と書いてあった。
会社に電話がかかってきた。
東京の、なんとかいうカタカナの会社である。
なんだろうかと思ったら、
「若草鹿之助さんですね。テレビの『笑っていいとも』に出ませんか」と言う。
「県ワングランプリ」というコーナーがあって、その地方の「ユニークな方」を紹介するのだと言う。
「鹿せんべいツイスト」を聞いて、電話をしてきたそうである。
彼が「ユニークな方」と言った時、私は断ろうと決めた。
「ユニークな方」という言葉の意味は、「けったいな人」「ずっこけた人」だと直感的にわかった。
彼は言った。
「『鹿せんべいツイスト』って、あの曲にあわせてツイストを踊るんですね?」
答えにくい質問ではないか。
「踊るんです」というのもヘンだし、「踊りません」と言うのもおかしい。
「踊りたければ踊ってもらっていいです」
「イ、イヤ、鹿之助さんが踊るんですよね」
「私はダンサーではないし、そもそも『ユニークな方』ではありませんよ」
「でも、観光協会の方でお聞きしましたら、あの曲を自作自演されているということで・・」
「そうです。単なるオーソドックスな、シンガーソングライターのイケメンナイスミドルに過ぎないんです」
「そ、それで十分ユニークかと・・・」
とにかく私は断った。
まともなアーチストとして扱われるならともかく、イロモノ扱いはごめんだ。
これまで支援してくださった方々のためにも、出る場を選びたいと思うのである。
私が断ると、電話の人は言った。
「そうですか・・・。じゃあ、身近にユニークな方はおられませんか」
知るか!