若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

若草山山開き記念鹿せんべい飛ばし大会報告:1

若草山は雨だった。
冷たい雨だった。

春雨に煙る若草山も風情があってよいではないかと思う人は、野外特設ステージで雨に打たれて人影まばらな若草山に向って歌う者の身になってみなさい。

若草山に着いた頃から、ポツリポツリと降り出した。
本部テントに入って座っていると、「鹿之助さーん」と観光協会の人に呼ばれた。
行くと、小学校高学年の男の子とお母さんがいた。

「去年、『鹿せんべいツイスト』のCD買ったんですけど、この子がどうしても鹿之助さんに会いたいと言うもんで。サインしてやって下さい」
うれしいではないか。
男の子に
「何君かな」と聞くと
「たつやです」
「どんな字?」
「達人の達に、なりです」

私は、「達也君へ 若草鹿之助」と達筆で書いた。
お母さんが、「握手してやって下さい」と言う。
えらくなったような気がした。

「一緒に写真写させてください」
もっとえらくなったような気がしたが、私は、「少々お待ちください」と言った。
衣裳をつけていないのだ。
あわててコートを脱いでブレザーを脱いでセーターを脱いで「エバラ焼肉のタレ黄金」風豪華キンキラキンジャケットを着て遠近両用メガネをはずしてサングラスをかけた。

正装した私を見てお母さんは笑ったが、男の子はボーゼンとしていた。

雨は本降りになってきた。
しばらくするとまた、「鹿之助さーん」と呼ばれた。
忙しいではないか。

今度は小学生の可愛い女の子だ。
観光協会の人が、「この子、鹿之助さんに聞きたいことがあるそうでっせ」と言った。

私を見ると、女の子は黙ってうつむいてしまった。
サングラスをかけた「エバラ焼肉のタレ」に驚いたのだろうか。

「何が聞きたいのかな?」と言うと、女の子の側にいた、髪の毛を金髪に染めた怪しい男が口を出した。
「娘がね、ラジオで『鹿せんべいツイスト』聞いて、えらい気に入ってしもてね。有線放送にリクエストしたけど、おませんな」
怪しい男ではなくて、お父さんだった。

「鹿之助さんに聞きたいことがある言うんで連れて来たんですわ。はよ聞かんかいな」
お父さんに促されて女の子は恥ずかしそうにおずおずと
「あの声出すのに、どんな練習してるんですか」

「あの声」というのは、CDで1オクターブ上げた声のことだ。
前にも、「あの声は地声ですか」と聞かれたことがあるが・・・。