ある人の随筆を読んでいたら、奥さんが脈絡も無く物を言うので困ると書いていた。
「石原さんも結局時間が無いのよね」
突然こう言われて、ご主人は都知事の話かと思うのだが、これは、奥さんが女学校時代の友人を旅行に誘って断られたという話なのだ。
家内も、本を読んでいる時などに、唐突に話し出すことがある。
自分で何か考えて、ある程度考えたところで突然切り出す。
切り出す瞬間はわかる。
本から目を上げて、難しい顔をして宙を見つめる。
考えているのである。
5秒くらいである。家内は5秒以上考えることはできない。
5秒後に、ふと普通の顔に戻った瞬間、私に話しかけるのである。
以前、本を読んでいた家内が、顔をあげて難しい顔をした。
何か考えているな、と思って見ていたら、5秒以上たっても考え続けている。
大丈夫かな、と心配していたら、家内の顔が赤くなって、耳から煙が出てきた。
考えすぎて脳がショートしたのである。
私は、冷蔵庫に飛んで行って、アイスノンを家内の頭に乗せた。
ところが煙はますます激しくなる。
よほどあわてていたのであろう、私が家内の頭に乗せたのは、アイスノンではなくて、キムコジャイアントだったのである。
先日、家内が何か読んでいて、難しい顔をしているなと思ったら、突然私に
「シュツエジプトキハ」と言った。
一瞬、何のことかと思う。
急に早口言葉を始めたのか。
家内は、最近「聖書」をはじめキリスト教関係の本をよく読んでいる。
「出エジプト記」なのであった。
昨日、家内は聖書を読んでいた。
私は、「天才バカボン」を読んでいた。
私より家内の方が偉いと思う人は間違っている。
何を読んでいるか比べても意味はない。如何に読んでいるかが問題なのである。
「聖書を理解できているのか」「聖書的生き方ができているのか」、そして、「天才バカボンを理解できているのか」「バカボン的生き方ができているのか」と問わなければならない。
家内は聖書から顔をあげて、5秒間考えてから、突然私に言った。
「すくわれるって、どんな感じかしら?」
「金魚に聞いてみたら?」
家内は、一瞬とまどっていたが、翻然として悟るところがあったようで、また聖書を読み始めた。
家内の、キリスト教的問いかけに対して、私は、禅的に答えたと言うべきか。