私が中学生のころまでは、「常夏の国夢の島ハワイ」などと言っていた。
二十年ほど前だったか、ある女優さんがハワイからの中継で、「夢の島ハワイに来ています」と言って、笑われていた。
私が高校三年のとき、東海道新幹線が開通した。
「夢の超特急ひかり」であった。
高校の同じクラスのA君が、開通直後の新幹線で、「ひかり」に乗って東京へ行った。
教室でその話を聞いていたら、純朴なT君が目を丸くして、
「えっ!おまえ、夢の超特急に乗ったんか!?」と叫んだ。
皆に冷やかされましたね。
「『夢の超特急』てなんやそれ!もう現実に走ってるやないか!」
会社の近くに神社がある。
神社の横を通って駅に行く。
神社の鳥居のそばに、若い男女が立っていた。
どちらも茶髪の今風の若者である。
無言でにらみ合っているという感じで、かすかに緊張感が漂っていた。
なんかもめているのだな、と思った。
男が25、6で、女は20くらいか。
私が近づいて行っても、どちらも何も話さない。
と言って、それほど険悪な雰囲気でもなく、別れるとか、生きるとか死ぬとかいう問題ではなさそうな気がする。
それにしても沈黙が長い。
私がすぐ側まで近づいたとき、ついに沈黙を破って男が大声で叫んだ。
「ハワイ!?」
鎮守の森に響き渡るような大声であった。
女性は黙ってうつむいている。
男がもう一度叫んだ。
「ハワイ!?」
女性はやはりうつむいて黙っている。
男が大声で叫ぶ。
「なに考えてるねン!」
沈黙。
男が叫ぶ。
「そんなカネ、どこにあるねん!」
鎮守の森は静まりかえっていた。
私は、鳥居の前を通り過ぎる時、拝殿に向かって
「この人たちに、ハワイ旅行が当たりますように」
と祈った。