子供が小さいころはよく公園に行った。
公園ではさまざまなドラマが生まれるのであるが、子供達は忘れてしまっているであろう。
ゆうすけ君も、私のことは忘れてしまっているであろう。
息子を連れて、近所の11階建て巨大マンション、「パークハイツ」の公園に行った。
砂場で息子を遊ばせていると、幼稚園前と思える男の子がポリ袋を下げて立っている。
家に帰ろうとして、自分のおもちゃを探しているようだ。
男の子が私を見上げて、困ったような顔で言った。
「おっちゃん、ボクのおもちゃ探して」
「え!おっちゃん、どれがボクのおもちゃかわからんワ」
「名前書いてある。『すぎたゆうすけ』て書いてある」
その子のポリ袋をのぞくと、なるほど、おもちゃに「すぎたゆうすけ」と書いてあった。
私は元気よく言った。
「よっしゃ!ゆうすけくんのおもちゃを探そう!」
「うん!」
ゆうすけくんはうれしそうに言った。
広い砂場で子供達がそれぞれのおもちゃで遊んでいるので、捜索は難航した。
ポリ袋に八分通り入ったので、
「これでおしまいかな?」と聞いた。
ゆうすけくんはじっと袋を見て
「スコップが無い」と言った。
スコップは、砂場の外の植え込みの根元にあった。
「これでおしまいやな?」
「う〜ん・・・シャンプーが無い」
そんなもん、どーでもええがな、とは言えない。
シャンプーの容器は、滑り台の下にあった。
「これでおしまいやな?」
「うん!おっちゃん!ありがとう!」
ゆうすけくんの笑顔を見て私もうれしかったが、ゆうすけくんがすぐ途方にくれたような顔になって
「おっちゃん、ボク、おうちに連れて帰って」
と言ったのには驚いた。
「ゆうすけくんのおうち、どこ」
「パークハイツ」
私は11階建て巨大マンションを見上げた。
「何階かな」
「知らん」
とんでもないことになってしまったではないか。
この子を家まで連れて行くのは私の責任のようであった。
私は、砂場で遊んでいる子供達に大声で呼びかけた。
「おーい!この子知ってる人〜!」
振り向いた子供達は声をそろえて言った。
「知ら〜ん!」
引っ越してきたばかりなのか?
なんという親じゃ。
困っていると、買い物帰りといった格好の女性が通りかかって
「ゆうすけくーん」と声をかけた。
ゆうすけくんの隣のおばさんなのであった。
地獄に仏であった。