エレキギターを習い始めて以来、発表会前に悪夢を見る。
舞台に立ったらギターの弦がなかったとか、バカバカしい情けない夢である。
以前は必ずうなされたが、この一、二年は見ないこともある。
24日の発表会を控えて、今回は悪夢を見てしまった。
ステージに立ったのはいいが、私のエフェクターが見当たらないのだ。
この、「エフェクター」というのは、ギターの音色を変える道具である。
習い始めた頃、自分のギターの音色が、レコードで聞く迫力あるエレキサウンドではなく、ペンペンというしょぼい音なのが不満だった。
その時、エフェクターを使えば簡単にそういう音が出るという耳寄りな話を聞いた。
早速買ってみた。一万円ほどの、タバコの箱くらいの小さな箱であった。
こんなもので効果があるのか?
半信半疑であった。
家でアンプにつないで鳴らしてみた。
効果絶大!
ギャーン!という激しい音が鳴った。
家内が飛んで来て、「アンプ、こわれたの?」と聞いたほどである。
ギターがうまくなったわけではないのに、うまくなったような気がする。
これほど手軽で効果絶大なものも少ないと思う。
だから、これがないと、私のヘタさ加減が聴衆の皆様に、丸分かりの早分かりというか、私の演奏力のなさが、白日の下に目にも鮮やかに、丸出しのむき出し、あからさまにモザイクもぼかしもなく赤裸々にさらけ出されるのである。
「赤裸々」で思い出した。
中学三年の国語の時間である。
前の席の岡田さんという女の子が、私の隣の永谷君に教科書を見せて聞いた。
「これ、なんて読むの」
岡田さんの教科書に目をやった永谷君は、真っ赤になって蚊の鳴くような声で
「せきらら」と答えた。
私は、「ひゃ〜!恥ずかしー!ボクに聞かれなくて良かった」と思った。
私の脳に聞いてみたいところであるが、先を急ごう。
焦ってエフェクターを探し回ったが、どこにもない。
しかたがない。アンプで激しい音を出そう。
ギターアンプにもいろんなツマミがついていて、設定次第でそれなりに激しい音も出るのである。
私はギターアンプのツマミを触ろうとして腰を抜かさんばかりに驚いた。
ツ、ツ、ツマミがない!
これは悪夢なのか!と思ったところで悪夢は終わった。
ここで改めて私の脳に聞きたい。
いつまでこんなしょーもない情けない夢を見るつもりなのだ。